第16話
まだ、ぞわぞわ感が抜けなかった。
類稀なる美貌と豊満な体で、一体これまで何人ものウクーを骨抜きにしてきたのだろうかと想像すると鳥肌が立ってきた。
物柔らかではあるが、ねっとり絡みつくどぎつい香りと、誘惑されたら取って食われそうな恐怖感があってどうも好きになれなかった。
モチオは華美な女性は苦手だった。
(どうせわたしはリルしか知らないよ……でもそれが何だっていうんだよ!!
もうっ……!!)
道端の石ころを思い切り蹴飛ばした彼は、ドキドキがおさまらない一方で苛立ちも覚えていた。
リルが不在の50年間、言い寄られたのは2人だけでそれも全て断っていたし、ニミコとは今と変わらずの間柄なので、恋愛とは無縁の生活を送っていた。
とにかく、何で昔も今もこう間が悪いんだろう――
とモチオは運の悪さを嘆いていた。
まだモチオがうら若き頃、リルの家に内緒で赴いた際、恋人と激しく愛し合っている場面を目撃したのだが、それがカナエで、あまりの刺激の強さにしばらく釘付けになっていたことがあった。
今では同様の場面に出くわしても、歳をとったせいなのか、恋愛というものにトキメキを感じなくなってしまったのか、すっかり冷めた目でしか見られなくなってしまった。
けれども、リルとの思い出が蘇ると懐かしく、胸がきゅっとなった。
信頼していた相手と関係を断ち切るのは容易いものではなかった。
ウキウクでウクーが生まれるのはおよそ5年に一度、決まった数の卵が一斉に孵る。
モチオが生まれた時も、同年齢のウクーが数十人いて、たいていはその中で親睦を深めるのだが、モチオは彼らとは友達になれなかった――
というよりも、他のウクーより一歩遅めで、なりそびれたのだった。
気が付いた時には、モチオ以外のウクー達で既にグループができていたので、わざわざ辛い思いまでして仲間の輪に入っていくのも気が進まず、先輩が世話をしてくれている時以外は、ほぼ1人で行動していた。
群れることが苦手な彼は、友達がほしいとは特に思っていなかったが、話し相手はいてほしかった。
だから、リルの存在はモチオにとって大きく、懇意にしているウクーが何人いようがたいして気にしていなかった。
彼の言動は全てが自然で、腹が立ったり苛立ったりすることは一切なかった。
恋の噂は絶えなかったが、モチオと過ごす時は彼だけをまっすぐ見ていてくれたし、リルが恋人と会う日は事前に知らされていたので、その日時を避けて訪ねることが定着していた。
(あの優しい声を思い出すと、また会いたいなあ~って思ってしまうな……)
駅に到着したモチオは、誰もいない構内の白いベンチに腰掛けた。
電車が来るまであと10分あった。
爽やかな陽気の中、彼はリルと2人で過ごしていた頃を思い返していた。
(リルは良い人なんだけどさ、すぐに他人を好きになってしまうというか、誘われると断れないタイプなんだよな。
いや、惹きつけてるのはリルの方だったか…………
選り好みが激しかったら、わたしは“友達”にすらなってもらえなかったかもしれないけど。
顔もイマイチで内気だし、ずば抜けて良いところもないからな……)
自虐的な笑みが漏れた。
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