第5話
モチオが住んでいるのは、リガニ町南部にある2階建て集合住宅の一室だ。
ウクーは生まれてしばらくは世話係の大人とともに暮らすが、数年経つと自分の部屋を与えられる。
シャワールーム、トイレの他、10畳の居室にはベッド、テーブル、椅子、チェストなどの家具が備え付けられており、すぐに住める状態にはなっているものの、更に住みやすくするため“クウ”で家具を購入する者が大半である。
“クウ”は人間世界でいうところのお金と同じで、ウキウクにとって良い行いをすればするほどメハトに自動的に蓄積されていく仕組みになっている。
モチオのルーティンワークとなっている虫駆除団子作りも、ウキウクに貢献しているので一定のクウは付与され、“とおし”に関してもウクーの手助けという評価がされているので、決して貧乏ではなかった。
100年も経てば一軒家を建てる者もいる中で、モチオは未だ狭い部屋暮らしだった。
静かで常識のある隣人に特別困り事もなく生活していたので、不自由を感じていなかったからだ。
部屋は物をごちゃごちゃ置くよりも、寛ぎスペースを優先的に確保した結果、備え付け以外の大型家具は本棚と1人掛けソファくらいしかなく、シンプルすぎる室内になってしまったが、モチオは気に入っていた。
(誰も家には来ないから……)
リルと付き合って約80年、2人で過ごす時はモチオがリルの家に泊まることが多かった。
リルの方が先輩で仕事が忙しく、わざわざ遠方まで足を運んでもらうのは気が引けるのと、部屋に残り香があると恋しくなって、もっと一緒にいたい――
と辛くなることに堪えられなかったからである。
ウクーの移動手段は専ら徒歩や自転車であるが、遠方への移動手段はレールバス――小型の気動車を利用するウクーが多い。
外世界に比べて公共交通機関が発達していないウキウクで、レールバスはウクーにとって貴重な移動手段だった。
橙ウキウクのレールバスの車両は、水色の小さな丸いフォルムで、車内の天井には、季節ごとに変わる造花が飾られている。
春の時期は、淡いピンクや白がメインの桜や桃といった愛らしい花々で彩られ、心浮きたつような雰囲気に仕上がっていた。
一通り仕事が終わったモチオは、自宅で休憩し身支度を済ませると、最寄駅からレールバスに乗った。
ドア近くの吊革に取り付けられた香り袋から、ほのかに良い香りが車内に漂う。
約1時間の乗車時間も、ゆったりとした気分に浸りながら、彼は今頃何をしているんだろう――とか、どんなことを話そうかな――
等と想像を巡らせていると胸が高鳴り、あっという間に駅に到着してしまうので全く苦痛には感じられなかった。
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