第24話
翌日、モチオは自宅近辺の害虫駆除団子の取り換えや、草むしりを行っていた。
一通り作業が終わると昼前になっていたので、休憩をしに庭の植物に生っている青紫色の実を3粒食べてから外世界へ出た。
トフシイ東側広場のベンチに腰をかけて、しばらくあたりの様子を観察していると、少し離れた場所に寄せ植えされた植木の間を、サーッと赤いものが通り過ぎた。
(あっ、駒だ……)
赤い生地に白ドットのベストを着た幼児――
駒と母親の美須乃が広場入口の前で立ち止まったのだが、何やら様子がおかしかった。
時折、駒の「ギャア~」「イヤ~」などの声が聞こえ、ぐずっているように見えた。
「ドーナツたべるの~」
「先週食べたやん。また今度」
「たべたい~!!」
「家帰ったらごはんやで。ごはん食べやんの?」
「うん」
「じゃあ、昼ごはんなしな」
「ごはんたべる~!!」
「それやったら帰らな」
「ドーナツ~!!」
「やから、ドーナツは今日は買わんの」
「ドーナツがいいの!!ドーナツ~かってよ~!!」
「嫌や。おやつ
「おやつほしいの~」
「う~ん……じゃあ、ほら、ラムネ」
美須乃がリュックサックの中からラムネ袋を取り出し手の平に乗せると、駒はさっと掴み取って口に入れた。
「……………」
ようやく落ち着いたかと思っていたら駒は、
「かえるの~」
美須乃とは反対方向に歩き出した。
「ちょっと!!こっちやで!!」
「こっちからいくの~」
「無理やろ。おうち帰れへんよ」
「こっちなの~!!」
「じゃあ1人で帰れば?ママ、こっちから行くし。バイバーイ」
ぐいぐい服を引っ張ってくる駒を引き離し、美須乃が先に行こうとすると、
「ママァ~~~~!!!!」
駒が大絶叫した。
「何や!!」
「いっしょにいくの~!!」
「初めからそうしろよ」
美須乃はぎゅうっとしがみついてくる駒の腕を取ったが、駒は払い除けて自分の足元を指差した。
「むし~!!むしついたの~!!」
「テントウムシやろ、何もせんわ」
つま先に止まっていた赤いテントウムシを美須乃はパッと払い、
「帰るで」
右手を伸ばして駒と手をつなごうとしたが、
「こっちがいいの!!」
駒はその手を取らずに、美須乃の反対側にまわり左手を握った。
「変なとこにこだわるな!!」
ようやく歩き出すかと思ったら今度はまた、
「ドーナツ~!!」
と店の方に戻って行こうとしたので、
「うるせえな!!帰るって言うとるやろ!!ぶん殴んぞ……!!」
ブチ切れた美須乃はべしっと駒の頭を叩いた。
「びえ~~ん!!いたい~~!!」
叩かれた駒は頭に手を当てながら、顔をくしゃくしゃにして泣き出した。
「泣くな!!お前が言うこときかんからやろ」
「びえ~~!!びえ~~!!ドーナツぅ~~!!」
「もう!!鬱陶しいな!!置いてくで!!」
「まって~~!!」
「じゃあ早よしろよ!!おっせえな……!!」
チッと舌打ちした美須乃はズボンのポケットからティッシュを取り出し、鼻水を垂らしているだろう駒の鼻を拭いた。
(あんな大声出すんだ…………)
まるで別人のような声量と言葉遣いにモチオは唖然としていた。
これまで、子供が駄々をこねて母親が𠮟りつける場面は度々目撃してきたが、大人しそうだと思っていた人が激怒すると凄みが増し、普段とのギャップの差がありすぎて戸惑ってしまった。
(ここまで豹変する人も珍しいな……子育てしてると、皆こういうものなのかな)
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