第14話
木曜日、モチオはレールバスに乗って、リガニ町東部中央に住むユティの部屋を訪れていた。
月曜日にニミコから、ウキウクたよりを渡すよう頼まれていた相手である。
モチオは1階の西側角部屋の前に立ち、扉をコンコンコンとノックした。
返事はない。
(まだ寝てるのかな……)
ニミコが「寝てる時は部屋のカギ開けとくから入っていい」と言っていたのを思い出し、彼はもう一度軽くノックしてから葉っぱ型のハンドルを開いた。
「ユティ~起きてる?ニミコからたより預かって……」
玄関に足を踏み入れた瞬間、彼は目が点になった。
目に飛び込んできたのが、ベッドで縺れ合う全裸の若い男女の姿だったからである。
「うぉぉぉぉぉぉ~~っ!!イク~っっっっ!!!!」
絶頂の声とともにベッドが激しく軋む。
ふっと力が抜けた男は動きを止めると茶髪の女性に覆いかぶさった。
女性は目を閉じたまま「ん……」と身をよじらせていた。
「ふぅ………」
抱き合いながら互いに見つめ合う2人だったが、
「あの……もういい?」
モチオの一言にハッと振り返った男は大慌てでベッドから降り、目にもとまらぬ速さで床に投げ捨ててあった服を着た。
彼女のほうは恥ずかしそうに布団にくるまった。
「あ、あれ?モチオさん?……お、おはようございますぅ…………」
玄関にやって来たのは、ピアスをした金色短髪の若い男――
ユティはばつが悪そうな顔で頭を掻いた。
「今日の朝に行くって言われてたんだろう?」
「すみませーん……覚えてたんですけど、つい、はっちゃけすぎてこんな時間に……」
ユティは明るくてお調子者の36歳。
ニミコの後輩で、彼女を通じて10年前に知り合った。
このくらいの歳のウクーは、体は成熟していても心は未熟な者が多く、彼もまだまだ青臭さの残る青年だった。
「そう。お楽しみ中のところ邪魔してごめん」
モチオは冷ややかな視線を送っていたにもかかわらずユティは、
「そうなんですよ~いや、それはもう舞い上がっちゃって~初めての彼女なんで……」
と惚気ていたため今度は苛々感が募ってきた。
そして空気の読めない若者は、
「あ、モチオさんは彼女います?」
モチオに尋ねた。
「今はパートナーいないから」
「“今は”ってことは昔はいたんですかね?」
「いたよ……って、それ今言う必要ある?」
「いや、ないです……てか、機嫌悪くないですか?」
「朝っぱらからイチャつかれて、気分良いって人のが少ないと思うけど」
「いえ……本当にすみません」
「来たのがわたしで良かったよ。ニミコだったら締め上げられてたかもな」
「ひえ………」
ユティはサーっと青ざめた。
「別に部屋で何してようが構わないけど、最低限のマナーってものがあるだろ」
「はい……申し訳ないです……」
反省の色を見せた彼にモチオは、たよりの紙を差し出した。
「ここに書いてあること、わからなかったらニミコに聞いて」
「え、モチオさんじゃダメなんですかね?その……ニミコ先輩苦手で」
「わたしは内容知らないもん。それに、わたしが教えたところで間違ってたら、もっと怒られるよ。先輩なんだから丁寧に教えてくれるよ」
「え~~いつもキレ口調だから怖くて」
「いつもあんなもんだよ。余程のことがない限り、殴りかかったりしないから大丈夫」
「そうですかねえ……ってか、モチオさんはニミコ先輩と親しいですよね。お付き合いされてないんですか?」
それほど親しい間柄でもないのに、やたら人のプライバシーに踏み込んでくる奴だなと思いつつモチオは、
「その気がない」
と短く答えた。
「あ、ああ、そうっすか……」
「もう帰っていい?」
「は、はい……じゃあ、頑張ってみます」
「よろしく」
どん底に突き落とされたようなユティを少々気の毒に感じながらモチオは、
(まあ、わたしもユティくらいの頃はリルのとこに入り浸ってたから、人のこと言えた質じゃないけど……いや、そこまで享楽的な生活してなかったよな……)
と自身を顧みた。
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