第8話
「まず弟くんについてだが、七つ年下と言っていたね。高校生くらいで合っているかい?」
こくりと頷くと彼はさらさらとペンを走らせる。
「名前を聞いても?」
「明です。明星の明と書いて、明」
ふむふむ、と頷くバディ。
「周りからは良く似てるって言われるので顔はだいたい僕と同じような感じかと……。あ、でもあいつ髪の色素が薄くて、地毛が茶色っぽいです」
と、一通り弟の特徴を口頭で話し、そろそろ言うことなくなってきたな、と思った段階でバディはそっと手帳を閉じた。
「よし、概ね弟くんの特徴についてはわかったよ。さて……この段階で私には一つ、思い当たる事象がある」
「え? ほ、本当ですか?!」
「ああ。ただ、弟くんがそれに巻き込まれたかどうかはわからない。あくまで可能性の一つでしかないのだけど……最近、このあたりで人間の男の子の目撃情報が相次いでいるんだ」
「その噂、あっしもチラッと聞きましたえ」
このあたりで……ってことは、バディたちがいる此方側の世界で、ってことか。
「たまに生きた人間が迷い込むことがあるとは言ったけれど、こう頻繁に目撃情報が出ることは異常事態なんだ。それにもう一つ気になることがあってね」
「気になること?」
「その子は、此方側の住民に連れられていたそうなんだ。噂だと、この辺じゃ珍しい二足歩行のやつで大きな体に赤ら顔……という特徴だったかな」
つまり、妖怪あるいは幽霊に人間が連れ回されているという状況。
散々探しても姿どころかどこで姿を消したのか痕跡すら残っていない弟の失踪は確かに謎に包まれている。
考えもしなかったけど、此方側という世界があるんだと知ってしまった以上、弟が此方側でなにかしらに巻き込まれたという線も可能性として考えて問題ないはずだ。
ただ、捜索範囲が一気に広がってしまったという点ではそう喜んでもいられないのだけれど。
「ふむぅ、いまいちパッとしない特徴ですねぇ」
いつの間にかカップを空にしたらしいミケがソファにごろりと転がりながら不満そうに零す。
「あくまで噂だからね。連れていた"なにか"の特徴が少しでも出回っているだけ良い方さ。まあ法螺の可能性もあるけれど」
困ったように笑ったバディはまたもや手帳を何処かに仕舞い、ソファを飛び降りたかと思うと、コートハンガーにかかっていたチェックのキャスケットを被った。
「さっきも言ったがこの件が茜の弟くんと関わりがあるかどうかはわからない。しかし、関わっているかどうか悩んでいるより、さっさと真実を解き明かしてしまったほうが素早く次のアクションに移れるだろう? ということで一先ずはこの件を調べていくことにしようと思うが、茜はそれでいいかい?」
「……はい。あいつが見つかる可能性が少しでもあるのなら」
例えその目撃された子というのが弟じゃなかったとしても……少しでも、何かヒントになるのなら。
とっくに自分だけでは手詰まりだったのだから、どこへ進めば良いのかを導いてくれる彼らの存在は有り難い。
「さて、じゃあ出かけよう」
なにやら身支度を整えたらしい彼は事務所の出口に足を向けながらこちらに振り向く。
「捜査の基本は足だからね。ついでにこの辺りを案内するよ。ついておいで、茜」
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