第29話 悠久幻想曲(ADV)

 前作に発売された『エターナルメロディ』の続編としてメディアワークスから発売された悠久シリーズの第一作目。


 パッケージなどから一見、万人受けしにくいギャルゲー(美少女ゲーム?)のようなイメージがあるが、そのような要素はなく、れっきとした男女の友情をモチーフとした育成アドベンチャーゲーム(以下略ADV)である。


 今回も『エターナルメロディ』と同じくサターンとプレステの両機種で発売され、さらに両盤は共に癒し系の主題歌とエンディング曲だが、サターンとプレステでは歌手が違い、一部のシナリオも丸ごと違う内容とこだわった設定となっている。


 ──物語は親もいない風来坊であった主人公が、アリサが経営する何でも屋のお店で住み込みで働くことになり、そこにいるアリサとアリサの知り合いの仲間たちと仲良く暮らしていた所から始まる。


 長年、この街での暮らしも悪くないと充実な毎日を過ごしていた主人公だったが、たまたま現場にいた主人公が美術品を窃盗した泥棒扱いとなり、いきなりの逮捕。


 アリサが保釈金を払ってくれたため、何とか釈放されたが、徐々に街の人々から煙たがれるようになる。


 このままでは一年後、主人公は街から追い出されることになり、その期間では到底払いきれない多額の保釈金で借金を抱えたアリサの店も倒産してしまう。


 それを防ぐには住民からの支持を受けるための裁判の審議が必要で、住民から良い評価と審議のためのお金を得るために、この街の仲間たちと協力して審議のために真っ当に働いて生きるのだが──。


 ──主人公と仲間のキャラを三人選び、アリサの店で色々な仕事をしながらキャラを育成していくシミュレーション要素(以下略SLG) が売りのゲームだが、基本は背景のある小説を読み進めていくようなノベルタイプのADVであり、画面下に文章を読むテキストが表示され、その上に立ち絵のキャラが出てきて色々と喋るという内容である。


 ただし、喋るといってもこの手のゲームにしては珍しくフルボイスではなく、口の動きも全くなく、キャラの絵面も極端に少ないため、感情移入がしにくい。


 当時にしては豪華な声優陣という顔立ちだが、めったにボイスが聞けないのは宝の持ち腐れと一緒であった。

 この有名声優の割り当てにより予算がオーバーしてしまったのだろうか。

 非常にひもじい。


 ──イベントCGも少なく、ひたすら文章のみが続いていくので、この手のゲームが苦手な人には意味不明なテキストに見えてくるかも知れない。

 本嫌いにはこれは一種の拷問かと思えるほどだ。


 ただ、文章量は膨大にあるので、一人のキャラ辺りに小説一冊分ほどの何万字とボリューム感はあるのだが、その文章を相手に想像力を駆使しないと全体的なストーリーが掴みづらい点もある。

 オープニングのシナリオもやたらと長く、読み疲れしてしまう所もある。


 ──万能に思える肝心なシナリオもおかしな箇所が多い。


 正当な選択肢を選んでみてもキャラの機嫌を損ねたり、あり得ない方向性の事故に巻き込まれたりと先の展開が非常に把握しづらい。

 これにより、キャラのイベントエピソードのクリアも難解ときたものだ。


 おまけにサブキャラたちにもおかしな点が多く、イベントに強引に割り込んできたり、折角の名シーンを台無しにしたりと困ったものである。


 そう、ここはおかしな異世界なのか?

『はい、そうです』と無言で頷きたくなる……。


 ──キャラや背景のデザインにも癖がある。

 友情をテーマにしたゲームに合わない絵本のような幼い絵柄、ましてや惹きつけるような技量もなく、こんな絵柄に免疫がない人には抵抗を感じさせ、傍目から見ても子供染みたギャルゲーと思えてしまう。

 そのデザインからこの目でプレイするまで万人向けの友情ゲームとは分かりにくい。


 ──ADVとは一味違うSLGパートによる育成パラメーターも14個もあり、無駄に多い。

 中ではパラメーターを上げても何の役にも立たない点もあり、さらに双六すごろくを回しながらマップを移動するのだが、人生ゲームのような流れで取っ付きにくい。


 イベントクリアには双六に必ず勝利しないとクリアにはならないなどとSLGパートとしての難易度もかなり高い。 


 後に強引に双六で望んだ目を出して、有利な状況に持っていくという裏技が公開されたが、それでも難易度が高い育成モードだった……。


 ──敵とのバトルをするテキストモードで繰り広げる戦闘シーンもあるが、こちらからの選択も運任せな要素もあるが、『エターナルメロディ』とは違い、それなりに能力を上げてなくても余裕で勝ててしまう。

 ラスボスの異様な弱さにも肩透かしを食らうだろう……。


 ただ一人辺りのキャラごとのイベントは豊富にあり、クリア時間も短くて再プレイはしやすい。


 しかも一度クリアしただけでは全てのイベントは見れないので一度クリアしても何回でも遊べるなどとゲームとしてのやり込み要素は高い。

 キャラのエンディングでは専用のイベントCGが見れて、クリア後に保存ができるという嬉しい場面も含まれていた。


 ──このゲームは後日にミニドラマ入りのサントラも発売され、三本のミニドラマではこの悠久のキャラと、あのアニメとのコラボというような面白おかしな内容となっている。

 ゲームで人気声優二人が担当したラジオからのオープニングやエンディング曲も収録とサントラのクオリティも高かった。


 ──さらに悠久シリーズはここで終わりではなかった。


 無印が予想以上にヒットし、大人気となったサブキャラたちも主役に躍り出るセカンドシリーズ、

キャラや戦闘シーンなどが3D表記となった3、

プレステのみで発売された双六マップがメインの『悠久組曲』などと短期間で数々の作品を生み出した。


 だが、3以降から物語の奇想天外さ、難解になったバトルシステムと問題が出始め、『悠久組曲』を最後にして悠久シリーズは幕を降ろすこととなった。


 ──悠久幻想曲。

 ギャルゲーではなく、男女の友情をテーマにした育成ADV。

 そこには恋愛要素は一切なく、キャラには信頼度から築ける好感度というものが存在するが、実際にキャラに恋してしまったのはプレイヤーの心の中だろう。


 そう、リラックスして好きな曲を聴くように、時には悠久という幻想に浸ってみたい時もあるのだ──。

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