第22話人魚と巨人

 雄太は、芹那と道を急いだ。

 迷っている暇はない。

 早く、徹と京介を助けなくては。

 そこはドアーズ・ストリ―ト。

 無数のドアが、存在している。

 すると開けっ放しの扉があった。

 そこは、かすかに光が漏れていて、日が差し込んでいる。

 雄太はためらった。

 そして、芹那は、

「ちょっと、何迷ってるの?」

 と言って、雄太を押しのけ、先に扉を開けた。

「なんか、やばい感じがするんだよ」

「躊躇ってる暇なんてないでしょ! 早くついてきて」

 と芹那が振り返った。そして前を向いた。

 芹那は、言葉を失った。

「おい、どうしたんだよ?」

「……」

 芹那の肩が震えている。

 雄太は、芹那の肩を押しのける。

 そして、見た。

 それは、世にも美しいコーラスを奏でる、人魚。

 そこは海。

 海の上に立っていた。

 雄太は、

「なんだよ、これ?」

 と言葉を失った。

 そして疑った。

 信じられるはずもない。

 その瞬間、飲み込まれた。

 大きな津波、否、何かに。

「芹那!」

 と雄太は、芹那の手を取ろうとした。

 芹那は、さらわれた。

 そして消えた。

「雄太――――!」

「芹那! 俺の手につかまれ!」

 指が人差し指が触れ合った。

 そして、そのまま、別れた。

 雄太の体を何かが釣り上げた。

 巨人。

 雄太は、なすがままに、宙に吊り上げられた。

「芹那、離せ! いったい何が!」

 と言って背後を振り返る。

 そこには、翼をもつ巨人。

 雄太は、雲を突き抜けた。そのまま宇宙へ達し放り投げられる。

 その瞬間。

 雄太は、岩の上にいた。

「せ、芹那……いったい何が……」

 雄太は起き上がる。

 横に芹那がいた。

 芹那は、うっすらと目を開けた。

「ゆ、雄太?」

「よかった、芹那、生きてたんだね」

「馬鹿言わないでよ、私は、少し、寝ていただけ」

 雄太は立ち上がる、その瞬間に軽くよろけた。

「大丈夫って言いたいのはこっちよ」

 と言って、芹那は起き上がった。

 そして自分のおしりを叩きながら、

「行こう。先へ進むの」

「ふふふふふふふふふっふ!」

 人魚たちが、海で笑っている。

「いったい、何なんだ?」

 人魚たちは、エリックサティの曲のようなトーンで、歌っている。

 芹那が指さした。

「あの人魚たちが救ってくれたの」

「まじ?」

「そう、名前は!」

「フフフフフフフッフウフ、ナルディア」

 と大きな声で、一人の人魚が言った。

 そして雄太と芹那は道を急いだ。

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