第19話運命

 戦い。

 それは京介の超克の戦いだった。

 ハルを守る。

 あるいは、ハルに守られる。

 とあるバーに立ち寄った。

 向かい合わせの席にハルが座る。

 京介は、ジンジャーエールに似た不思議な味のする神酒を注文した。

 ハルは、カクテル。それも、スウィーティーなエキゾチックな味のする特殊な飲み物。

 アルコールは入っていない。しかし、酔う。まるで、恋の陶酔のような、そんな気分になる。ハイになる。

 不意に横に男が座った。

 中肉中背、頬に、オオカミのタトゥー。

「おい、お前」

 とその男はどすの利いた声で言った。

「何だよ、お前」

 と京介は、静かに神酒をテーブルの上に置いた。

 コツ。

「女を、よこせ」

 オオカミは言った。

「嫌っていったら?」

 京介は言う。

オオカミは、ニヤッと笑う。頬のタトゥーが、ゆがむ。

「お前を消す」

 京介は、ふっと鼻で笑う。

「……」

 ハルはうっとりとした目で、京介を見つめたままだ。

 まるで、試すかのように。

 そして、表に出た。

 ハルは、カクテルを置く。

 カツリ。

 

パサージュの広場。

 噴水。

 ザーザーと音を立てている。

「殺す前に、名前だけ聞いておくよ」

 とオオカミが言う。

「聞きたけりゃ、自分から名のれよ」

「ふん、小僧が、いい度胸だ。俺はウルフレイ」

「俺は京介」

「瞬殺してやる」

 とウルフレイ

「俺はじゃあ、神殺だな。もっともお前は単なるオオカミ野郎だけどな」

 と言って超神刀を抜く。

 ウルフレイは、拳銃を抜く。

 早撃ち。

 京介はガラライザーとなる。

 常人の動体視力の一億倍。

 ウルフレイが放った弾丸をガラライザーは、瞬間的に首を振ってよける。

 京介の眼が、怪しく光る。

 ウルフレイは連射する。

 ガラライザーは、すべての弾丸をすれすれで交わしながら、地を蹴る。

 噴水の音がする。

 京介には聞こえている。

 ザーザーザーザー。

 ガン、ガンガン。

 残響すら聞き分ける。

 そして、達する。

 ウルフレイは、後方に素早く飛ぶ。

 ガラライザーの刀は、一瞬ウルフレイの頬のタトゥーを斬った。

 ウルフレイは、後方に飛びながら、さらに連射してくる。

 刀が弾丸を斬る。

 アーモンドが真っ二つに割れるように、弾丸を粉砕し、さらに、攻める。

 その時だ。

「馬鹿な真似はやめてよ!」

 と聞き慣れない女の声がする。

 美しい女だった。

 京介の意識が一瞬それる。

 そして、京介は、肩に鋭い痛みを感じた。

 一発の弾丸が、肩を貫通したのだ。

 利き腕ではない方が幸いだった。

「ウルフレイ! おふざけが過ぎるわよ」

 ウエーブのかかった髪を整えながら、女がそう叫んだ。そして、ふふっと笑った。

「ふん、あいさつ代わりだよ。試しただけさ」

「何?」

 京介は、歯を食いしばり、痛みをこらえる。

 ウルフレイは拳銃をソケットにおさめる。

 ガラライザイーも超神刀を鞘におさめる。

 ウルフレイが歩み寄ってくる。

「わりいな小僧、いや、京介か」

 そして、ハルがバーから出てきた。

 ハルははしゃいでいた。ハイになっている、違う。そしてこう言った。

「ウルフレイは仲間。それで、こっちのきれいな女性はローディアさん」

 そう振られて、ローディアは、ウエーブのかかった髪をバサッと後方に払いのける。

 首には赤い薔薇のタトゥー。

 ウルフレイが握手を求めてくる。それを京介は払いのける。

「なめんなよ」

 と京介は言う。

「まあ、いいじゃない、京介君」

 とローディアが近づいてくる。強烈な薔薇の香水の香りがする。

 そして京介の手を取る。

 京介は悪い気はしない。

 そしてローディアに導かれて、ウルフレイと手を握り合う。

「ごめんね、京介君」

 ハルがちろっと舌を出す。

「まあ、いいや」

 と京介。

 京介の眼から殺気は消えていた。

そして、ウルフレイがこう言った。

「お前もこれで、神々の戦いに巻き込まれた」

「なに?」

「運命みたいなやつだ」

 ハルが、京介の肩に触れる。

 そして、ハルは、「ハフナーの聖水」を水筒から取り出した。

 それを、京介の肩に、少量たらす。

 すると、傷が一瞬で治った。

「私たちは、手を取り合う。これから先ずっと。でも、行動は二人で一組」

「まるで、バディものの映画みたいだな」

「それで、俺はどうなる?」

「自分で考えろ」

「そうか、なら俺は神を超克してやる」

「ゼビレイドと戦うってことか?」

 とウルフレイは不敵に笑みを浮かべ、言う。

「かもな」

 と言って、京介も嗤う。

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