第18話勇者たち

 雄太と芹那が別の場所から帰ってくると、京介はいなかった。

 ラベンダーの香水の残り香があった。しかしすぐに消えた。記憶が去来するような、そんな香り。パサージュは、フランキンセンスの香りがしている。その香りが「支配」している。しかし、この香水は優しく鼻をなでた。瞬間が永遠となるように。しかし、すぐに消えた。

 安らぎ。

 そして二人は同時に直感した。

 ハルだ。

 気配でそれがわかる。

 香りの助力。

 そして雄太と芹那は迷わず、行った。

 京介とは、違う道を。

 道に入った。

 それは冒険の道。

 旅。

 歩調は速い。とても速い。

 その先には、「何か」がある。

「何か」が。

 徹の気配とは違う。

 ゼビレイド。

 きっと、それだ。

 雄太と芹那は予感した。

 ゲルムの言った真実の道とは、ゼビレイドを倒すこと。

 それが徹を救う道につながる。

「剣を抜いて!」

 誰かがそう言った。

 それは、美しいもの。神々しいもの。

 道端にある誰かの忘れ物。それは髪飾りだった。ハルだ。追憶の中の直感が教える。

 雄太が拾う。

 「剣を抜いて、そして助けてあげて、徹君を。徹君の『愛』を」

 耳鳴りのように、内に言葉が響く。

 それはハルの音色。声。確かな存在感。

 生ききる。そう、「生きたい、みんなと一緒に」というハルの悲しげな愛のメッセージ。

すると、目の前に、敵が現れた。

雄太は刀を抜く。風が起こる。風は怒る。

雄太の心は勇む。

奇怪な敵。モンスター。実体のない影。しかし、実体はある。

どす黒い影。

風神刀が感応し、すっと一閃。

影が飛ぶ。影の首が飛ぶ。

また影が路傍の陰から、やってくる。

芹那は拳を拳闘神のグローブを見舞う。「お見舞いがわりよ」とまるできめ台詞のように発しながら。

道を進む。

影は永遠と襲ってくる。トンネル。先の見えないトンネルの奥へと行くような。感傷とは程遠い、ファンタジックで、シリアスな戦い。

大いなる影との戦いの果てに、きっと徹がいると信じて。止むことのない、勇気が、膨れ上がる。膨張する力。ラベンダーが鼻をなでる。一戦一戦交える、その一瞬に全身の緊張がすっと解かれる。

シーシュポスの神話。アルベール・カミュを思い出す。

運んでも、運んでも、転がり落ちる石。しかし、意志の力で登っていく。一歩ずつ。

ニーチェのように闘っていくのだ。約束を守るために。真実の道を行く勇者たちは。


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