第11話徹は目覚める

 徹は夢から覚めた。

 家族と過ごしていた日々。

「ねえ、パパ」

 と徹は言った。

 徹はもう一度、呼んだ。

 徹の父は振り返った。

 そして父は「どうしたんだい?」と言って笑った。

 それから母の手を探した。

 母の手は、水仕事で荒れていた。

 その手を握ると、少し冷たくて、硬かった。

「一緒にいるから」

 と母は言って、徹の頭をなでた。

 そして、徹は、夢から覚めた。

「本当に?」

 と徹は言った。

 涙が、止まらない。

 尽きることなく、涙は止まらない。

 喪失の悲しみの中で、徹は探した。

 手探りで、中空を探った。

 何もない。

 しかし、徹はもがく。もがきつづけた。

 すると不意に、「感触」があった。

 それは、友の手だった。

 それが、友の手であったということを、確かに信じた。

「ハルちゃん?」

 と徹は呼びかけた。

 ハルらしき気配が答えた。

 そして微笑んだ。

 確かにハルが微笑んだ。

「大丈夫だよ」

 とハルは言った。

 徹は、ほっとして、ハルが徹を抱き起す。

「ハルちゃん」

 と徹は言う。

 ハルは泣いていた。

「どうして泣くの、ハルちゃん?」

 徹は訊いた。

「徹君、私がいるからね」

 と言ってハルは徹を抱きしめた。ハルは震えていた。

「ハルちゃん」

 そう徹は言って、ハルの清らかな匂いを感じた。

 その匂いは、どこか神聖で、追憶へとかえっていく清らかな匂いだった。

 徹は、いざなわれるように、ハルとの抱擁を解くと、見つめ合った。

「信じて」

 とハルは言った。

 徹は、

「当たり前だよ、ハルちゃんは僕の親友なんだから」

 そう徹が言うと、ハルは強く、強く、徹の手を握った。

 徹は、励まされ涙を拭く。

 徹は夢から覚めて、そこが、いつかの秘密基地であることを知った。

 木造りの扉を開ける。

 そこには美しい夕日があった。

 徹は親友たちの名を呼ぶ。

「雄太君、京介、芹那ちゃん!」

 するとハルが横に来る。

「きっと、三人は来てくれるから。信じて」

 ハルの眼は澄んでいた。

 夕日を反射して、美しく燃えるように、きらきらと輝いていた。そこにいるのは小学三年生のハルだ。徹は一回強く頷いた。ハルがまた微笑んだ。そして、

「暗闇がやってきても、いつか朝日は昇るよ」

 とだけ言った。

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