第9話子供たちの秘密基地
ゲルムは大きな水晶玉に手をかざし、何事か呪文を呟いた。
すると、その水晶玉にヴィジョンが映った。
「これは?」
と雄太が尋ねる。
「おぬしたちの進むべき場所じゃ」
三人は水晶玉に顔を近づける。
そこには大きな木が映っている。
そして、大きな木の幹に寄り掛かるように小さな掘立小屋がある。梯子が付いている。まるで映画の「スタンド・バイ・ミー」のようだ。
その梯子を上っていく子供がいる。
雄太は、はっとした。
「この子供、俺?」
とつぶやく。
それから三人の子供が続いて梯子を上っていく。
それは幼き頃の京介に芹那、そして、徹。
「いやあ、今日も、秘密基地で、遊べる!」
と徹がはしゃいだように叫びながら、梯子を登っていく。
子供の芹那は躍動した心のままに、奇声を発している。
「あ、思い出した。これ俺たちの秘密基地だ!」
と雄太。
そこで、水晶のヴィジョンが暗転する。
また同じ掘立小屋。
その日は夕暮れだった。
徹を含めた四人がまた梯子を登っていく。
「なあ、ハルちゃんも、早く登って来なよ!」
と徹。
すると、梯子の下でもじもじとして、躊躇う少女がいる。
その少女は銀髪をしていて、浮世離れした美しさがある。雄太たちと同い年くらい。雄太は、このヴィジョンが小学三年生の頃だと思い出す。
「ほら、ハルちゃん!」
と芹那も促す。
「え、でもお。私なんて」
とハルと呼ばれた少女はためらっている。
すると、徹が梯子を下りていく。
徹はハルの背中を押す。
「ハルちゃんは、仲間だよ! 僕たちの友達なんだから、いいんだよ」
するとハルは、にこっと微笑んだ。その無垢に照れた笑顔は、まるで天使。
京介が、上から叫ぶ。
「おい、徹! ハルちゃんになれなれしく触んな」
「ちがうよ」
と徹は弁解する。
「ちょっと京介! あんた下心丸見え。徹は、そんな気はないの! あんたと違って徹は優しいの!」
「うっせえなあ、芹那。ハルちゃんの可愛さに嫉妬すんなよ」
「何よ、そんなわけないじゃない。私だって、学校では最高の可愛さだもん」
「ハルちゃんは、宇宙一かわいい。なあ、雄太」
そう振られて、雄太は頷く。芹那は頬を膨らませる。
「ほらあ、ハルちゃん、いいんだよ。梯子を登りなよ」
「早くう!」
と四人がはもる。
そして、ハルは梯子を登った。
大きな木の近くにある掘立小屋。
小三の頃の秘密基地。
ハルが梯子を登り終え、掘立小屋に入っていく。
そして、徹が最後に入って、ドアを閉める。
水晶のヴィジョンはそこで消えた。
「何なんでしょうか?」
と雄太。
「確かに俺たちの秘密基地だった。あの頃、熱中していた」
と京介。
「あのハルっていう銀髪の女の子は……」
それから、
「さっきの女!」
と三人ははもる。
「思い出した」
と雄太。
「ハルちゃんだ! 転校生のハルちゃん! そうよ、宇宙一かわいいハルちゃん」
「何で、この思い出が、水晶に映ったんだ?」
と京介。
「わしに解るのはここまで。あとは自身で考えるのじゃ」
「でも、パサージュの道は無限にある」
「どの道も一つ。想いが本物であれば、無限の中でも真実の道を進める。必ず道は開ける」
とゲルムは言った。
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