第5話魔術幻灯のパサージュについて

 魔術幻灯のパサージュには美しい教会を思わせるような青いステンドグラスの天井がある。道の上のアーケードが、すなわち、青いステンドグラスだ。道が続く限り「永遠と仄かに青い」のだ。シャガールの絵画を想像してもらえばわかるだろう。

 それが「幻想太陽」という太陽に照らされ、きらきらと輝き続ける。幻想太陽は、ヴィンセント・ファン・ゴッホの描いた黄色い太陽である。もっとも、パサージュのステンドグラスによって遮蔽され幻想太陽は見ることができないのだが。

 パサージュは神々の世界に通じているのだ。いや、正確には神々の世界の中にすでに入っているのだが、入った者が行きつくべき目的地へたどり着くために存在するのである。

 幻想太陽は、人間の持つ宗教心にも似て、幻想である。きっとゴッホは現実の世界にいながら、「神の世界の太陽」を見つけていたのかもしれない。

 さらに魔術幻灯のパサージュは、フランスのパリにあるものとは似て非なる道だ。

 そう、かつてフランスのパリで十九世紀ごろ流行した場所で、詩人のボードレールやプルーストが歩いた道とは違うということだ。しかし、同じ、「感覚」がある。それはノスタルジーを刺激する匂いのようなもの。実際、魔術幻灯のパサージュに漂う匂いはフランキンセンス(乳香)の香りである。フランキンセンスは、宗教的な香りだ。神秘的で、浄化作用を持つ。

 魔術幻灯のパサージュは、抜け道である。

 そして、選ばれた人間が、通ることを許された道だ。

 道は果てしない。

 しかし、目的の世界にかかる時間は人によって全く違う。十分で着く者もいれば、百年かかる者も、千年かかる者だっている。

 時間は超越されている。

 神々の世界が永遠であるから、その中のパサージュで歳を取ることはない。

 時間は意味をなさないということだ。

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