第4話魔法の武器屋

 そして雄太たちは、再び魔術幻灯のパサージュに足を踏み入れた。

そう、あの頃、あの頃見たパサージュと、今雄太が見ているパサージュは、同じに見えなかった。

 成長したのだ。

 いい意味にも、悪い意味にも、雄太たちは成長した。

 そして、少年時代の幻を追いかけるように、再び、パサージュにやってきたのだ。

 魔法を売る店が並んでいた。

 あの頃は、ただキラキラした眼で、物珍しさから見ていた風景が、今では、違ったふうに見える。

 使命感と大事なものを取り戻すために、パサージュを歩いていく。

 そして、雄太が一軒の店の前で足を止める。

 魔法の武器を売る店だ。

 雄太はこう言った。

「なあ、京介。真剣を買おうぜ」

 京介はこう答える。

「ああ、そうだな。俺たちにふさわしいものをな」

 そして三人は魔法の武器屋に入っていった。

 店内には、たくさんの武器が売っている。

「あ、私、これがいい!」

 と芹那が言った。

 それははめただけで岩でも砕く拳となる《拳闘神のグローブ》だ。鮮血のように赤い色をしたグローブだ。値札には二億ゼニーとある。

 武器屋の主にこう聞いた。

「二億ゼニーって、どれくらいの額?」

 武器屋の主はにっこり笑ってこう言った。

「お嬢さん、魔法の宝玉を持っているね」

「はい、あります」

 と言って、赤い宝玉を見せる。宝玉は点滅している。

 武器屋の主は、頷いた。

「それがあればお代はいただきません」

「ほんとに?」

 武器屋の主は、にっこりとほほ笑んだ。

「ええ、その宝玉は選ばれし者の証しでっせ。無限に尽きないクレジットカードでっせ。ちなみに円に換算すれば、拳闘神のグローブは二兆円くらいでっせ」

 芹那は、「やった!」と拳闘神のグローブをはめて、それをほれぼれと眺めた。

 雄太は、一本の刀に目がとまった。

 鞘は全体が緑で、何やら美しい模様が刻まれてある。目を凝らして鞘を見つめると、きっと風に揺れる花々のようだ。花弁の部分は、色とりどりで、それがまるで、印のように赤、黄色、橙色と刻まれている。

値札には三億ゼニーとある。

《風神刀》という名前だ。

 店主はこう言った。

「その風神刀は、風を操ることができます。それに鋭い風の刃で切れない者はありません」

 雄太は主と眼を合わせ、首肯する。

 そして緑色のビー玉を見せる。

「毎度あり」

 京介は、ショーケースに入った刀を睨む。

「俺はこれがいい」

 すると、店主は一瞬顔をしかめて、首を左右に振る。

「お客さん、そいつはやめておいた方がいいでっせ」

「売り物ではないのか?」

 と京介が鋭いまなざしで店主を睨む。

「違います。その刀は『人を選ぶ』んでっせ」

 三人は首をかしげる。

「刀が人を選ぶ?」

 と京介が言う。

「ええ、その「超神の刀」は切った敵の血を吸うほどに人格を形成していくんです」

「人格?」

「そうでっせ。正しくは、超神の刀が、所有者の人格と混じり合っていきます」

「ほう、ということは、俺がこの剣で切れば切るほどに、俺の精神が変化するということか。ようするに……」

「そうでっせ。何のために、誰を切るのかによって、超神刀は、所有者の人格に影響を及ぼして、所有者を変える。もし、勇敢に戦い、そうです、善のために敵を切れば、きっと英雄に。でも、悪に心を奪われて、敵を切れば……」

「悪魔にもなりえる、と言うことか」

「まるで、ニーチェだな。そう善悪の彼岸。第一誰が善と悪の違いを見分けられるという?」

 と雄太が言う。

「その感覚が、美しいか醜いか。たぶんそういうことだと思う。雄太、俺も実はニーチェを読むんだよ。この超神の刀はまるで『力への意志』だ」

 と京介。

「力への意志、か」

 と雄太が言うと、

 京介が鼻で笑い、

「俺にふさわしい」

 と言う。

 ショーケースを開けて、店主は額の汗を手で拭う。

「あっしは、あまりふれたくはない。恐ろしいでっせ」

京介はそんな言葉など意に介せず、刀を手に取る。

そして京介は、漆黒の鞘に納まった刀を抜く。漆黒の鞘には金色の文字が刻まれている。それは神々の秘文字だと店主は言った。

一瞬、京介の眼がギラリと光る。

そして、

「これはすごい。圧倒的な力の衝動だ」

京介はごくりと唾をのみ、金色文字の刻まれた漆黒の鞘に刀を収める。

そして、黄色の、否、黄金色のビー玉を見せる。

雄太は風神刀

芹那は拳闘神のグローブ。

京介は超神刀。

そして三人は武器屋を出た。

木刀はいらないので捨てた。

雄太は風神刀を腰に帯びた。

京介は超神刀を背負った。

ウサギ紳士が表で待っていた。

「さあ、次の店に行こうか」

 とウサギ紳士は言って、先に歩いて行った。

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