UFO
前の職場の同期のT君の話。
T君はUFOを見たことがあると話す。
それも、よく言われるアダムスキー型のUFOだとか、夜空に光る星だと思ったら信じられないような動きをした後に消えただとか、そういうものではない。
本当に未確認の飛行する物体としてのUFOだと話す。
T君が通勤中に何の気なしに空を見上げると、人のような何かが飛んでいたのだそう。
T君は割と度のきつい眼鏡をかけるくらいには目が悪いが、それははっきり見えたという。
初めは人の形をした風船か何かが風に流されて飛んでいるのかと思ったが、どうやらそれは意思があるかのように手足をばたつかせている。
例えるなら、スカイダイビングをする時にパラシュートが上手く開かず、どうにかしようと藻搔いているような、それか、よく怪談で語られるくねくねと呼ばれる存在を彷彿とさせるような、そんな動き方だったそうだ。
もちろんT君はくねくねを見たことがある訳ではないが、私もその話を聞いた時はくねくねのよくなものを想像した。
その手足をばたつかせて飛ぶ人間のような何かは、落下するのではなくT君が向いた方角の右から左へと飛んでいったという。
ただ人間が外部からの動力もなしに飛行することは普通はできないし、風に煽られた程度で風船のように飛んでいくこともないため、その話を聞かされた人たちは皆、口を揃えて風船か何かと見間違えたのではないかと言った。
残念ながらT君以外にその飛行する人間のようなものを見た人はおらず、T君もその後は一度も見ていないそうだ。
T君はその話をする度に、あれは広義の意味ではUFOだと言えるから、僕はUFOを見たことがあると言える、と自慢げだった。
ただ、T君は私が怪談好きだと知ってか知らずか、他の人には話さなかった部分を語ってくれた。
その飛行する人間のようなものは、無秩序に手足ばたつかせてはいたが、右から左へと見切れるまでずっと、顔だけはT君の方を向き続けていたそうだ。
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