【閑話】天涯の杉(2)

「……」


「どうした?」


 任務終了後の装備の点検中、ふと浮かない顔で黙り込んでしまった相棒にできるだけ柔らかい口調で問いかけた。こいつがこんな顔をしているときは、大抵ろくでもないことを考えて一人でぐるぐる悩んでいる。


「ん……また来るのかな?って思って」


 主語が抜けてはいるが、おそらくじいさんの家に行った時に出くわしたあいつだろう。


「……もう来ないさ。絶対に」


 奴なら特大の釘を送っておいた。

 送られてきた怯え切ったメッセージと狂ったようなスタンプの連打を思い出す。あの調子なら二度と彼に手を出そうなどとは考えないだろう。


「えっ?」


「……何でもない。さて、行くぞ」


「う、うん」


 スマホに届いた最後の通知にちらりと目をやり、確信を込めてうなずくと、不思議そうな顔をしていた彼が慌ててついてくる。


 覚悟も望みも全て丸ごと守ると決めたから。もう掟を気にすることなく、障害になるものは遠慮なく取り除かせてもらう。


「ほら、さっさと乗れ」


 いつもの集合地点でトラックの荷台に乗り込みながら手を差し出すと、ひょいと嬉しそうに隣に座りこんでからくすりと笑った。


「どうした?」


「うん。なんか嬉しそうだから。何かいいことあった?」


「どうだろうな?」


「あ、ずるい。教えてくれたっていいのに」


 軽く頬を膨らませてみせるが、すぐにまた笑顔になって軽く目を閉じ、何か祈っている。日常のふとした拍子に神に祈るのも、純粋で敬虔な彼らしい。


「何を祈ってたんだ?」


「秘密」


「おい」


「ふふ。彼もね、見つかるといいなって」


「何が?」


「う~ん……たとえ世界中が敵になったとしても、その人さえいてくれればそれでいいって思える人?」


 ほんとは神様がいらっしゃるんだから一人っきりでも平気なはずなんだけどね、と続けてから照れくさそうに笑う。


「ああ、そうだな」


 俺もそう思う。

 ちょうどその時ガタンとトラックが出発した。空はどこまでも青く澄み渡り、どこかで鳥の甲高い声がする。明日も共に生きられますように。




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