第71話 ワイバーン戦

 天空のメンバーより後になれば、先へ行く妨害をされるだろう。なので、とにかく急いで、ワイバーン以外のものには目もくれず、走る。

 このルールが不平等だと指摘する声もあったが、

「それならメンバーを増やせ」

などと言う始末で、話にならない。

 天空をよく思っていない探索者達が、

「今だけメンバーになって、ワイバーン以外のものを狙おうか」

とも言ってくれたが、

「これで勝ったら、本当にギャフンと言わせられるだろ」

と言ったら、大笑いされた。

 とにかく、ワイバーンを狩れば問題はないのだ。

 斎賀達もほかの皆も、ワイバーンをどうやったら狩れるのかわかっていないので、できないだろうと思っているのがよくわかる。

 チビが魔力を全開で漏らして走れば、大抵のものは恐れて寄って来ない。

 それでさしたる邪魔もなく、ワイバーンの手前までランニングで到着した。

「フフン。上の階では、混乱したやつらが興奮したまま天空のやつらに襲い掛かってるぞ」

 チビが面白そうに言って笑う。

「向こうはワイバーン以外のものをたくさん狩るつもりだろうからな。まあ、親切じゃねえの?」

 幹彦が笑いながら言い、ワイバーンの姿を探すように空を見上げた。

「ポーションがあるから、死なない限り安心だもんな」

 僕も言いながら空を見てワイバーンの姿を探す。

 ポーションって凄い。

 この階は、草原とまばらに固まって生えている木と池でできている。草原でも、木が目隠しになっていて、見通す事はできない。

「お、いたぜ」

 幹彦が嬉しそうに言う。

 青い空を、悠々とワイバーンが飛んでいた。

 天空は、半分をほかの魔物を狩っておく班に回し、斎賀などの手練れのメンバーをワイバーン狙いにしているようだ。

 少し遅れてこの階に着いた彼らも、ワイバーンを探し始める。

 お互いに別々のワイバーンに目星をつけ、追い始めた。

 それを、見物に来た探索者達が見ている。

「さて。行こうか」

 言って、まずはワイバーンに向けて風の刃を放つ。

「グギャ!?」

 上空のワイバーンを落とせるほどの威力は無いが、気を引いて、こちらをエサと認識させる事には成功する。

「来たぜ、来たぜ」

 ワイバーンはこちらを目掛けて高度を落として突っ込んで来る。

 それに向けて、幹彦が飛剣を飛ばす。するとそれは翼に穴を開け、ワイバーンはバランスを崩しながら向きを変えて逃げようとする。

 そこに重力を増加させる魔術を当てると、ワイバーンは地響きを立てて地上に落下した。

「地上に引きずり下ろしたぞ!」

「いや、それでもこの先どうするか。硬いからそう簡単に斬れねえし、そもそも尾もくちばしも爪もあるから近付けねえ」

「火も吐くし風も使って来るしな」

「魔術攻撃か?でも、耐性も持ってるだろ」

 見学している探索者達が、興奮しながらそう言い合っているのが聞こえる。

 僕は頭の方へ、幹彦は尾の方に、チビは横へとばらけると、ワイバーンは重さにのたうちながら、尾を振り回し、喉の奥に火の球を準備しながら僕達を狙っている。

「いくぜ!」

 幹彦が、刀の刃に魔力をまとわせて尾に振り下ろすと、尾はきれいに切断されて飛んだ。

「ギャア!」

 大きくクチバシが開き、僕はそこに氷の槍を突きたてた。いくら体表が硬くても、喉や体内まで硬くはない。

「ゴオオ!」

 ジタバタと手足を動かし、暴れる。その肩にチビが飛び乗り、抑え込む。

「暴れんなって!」

 幹彦は背中に駆け上がると、刀の刃に魔力をまとわせ、首の付け根に一閃させた。

 それで首は、ゴトリと落ちた。

 一瞬の静寂の後、歓声が上がる。

「ふう」

 幹彦とチビはワイバーンの上から飛び降り、僕は近くに寄った。

「やったな!」

「ワン!」

「おう!」

 言っている間に、魔石と皮と爪を残してワイバーンの死体は消える。

 天空はと見ると、魔術のスキルを得たメンバーが気を引いてワイバーンを近付け、別のメンバーらでロープを足に引っかけて地上に引きずり下ろそうとしていた。

 そしてそれと同時に、斎賀達が寄ってたかって剣で斬りかかる。

 しかし硬い体表に傷はつかず、ワイバーンの尾で薙ぎ払われ、ケガを負う。

 ワイバーンのクチバシがうっすら開き、火が吐き出される。それを盾で受け止めるが、火は受け止めたが、盾を構えていた者はフッ飛ばされた。

 そして、羽をバサリとさせる。それで風の刃が撒き散らされ、ほとんどの者が地に伏せ、血を流す。

 足からロープが外れ、自由を取り戻したワイバーンは怒りを込めた目を天空メンバーに向けた。

「まずいんじゃないか、あれ」

 言うと、幹彦も目を離さずに

「ああ」

と言った。

 ワイバーンが再び、喉の奥に火を吐く準備をするのが、魔力の高まりで見えた。正面は斎賀だ。

 火の塊を吐き出し、斎賀は目を閉じた。

 が、その前に滑り込んだ僕が、障壁を張って火を受け止める。

「助けはいりますか」

 斎賀は答えないが、メンバーが

「助けてくれえ」

と言い、斎賀は

「情けのつもりか!」

と怒鳴った。

「流石に死ぬかもしれないだろうが。意地で仲間を殺す気かよ」

 幹彦がそう言うと、斎賀は首を垂れ、

「……頼む。俺の負けだ」

と絞り出すような声で応えた。

「おう」

 幹彦が刀の刃に魔力をまとわせ、ワイバーンの首に斬りつける。

 ゴトリと首が落ち、体が倒れ、そうして、魔石と皮を残して消えて行った。




 

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