第70話 挑戦

 そう時間もかからず、ワイバーンの目撃例は広まった。

「ヤバいだろ、あれは」

「ああ。ヤバすぎる」

 目を輝かせていう者もいれば、沈んだ様子で考え込んでいる者もおり、「ヤバい」の意味は2通りあったが。

 ワイバーンをどうにかしないと次へ進む事ができず、かと言ってワイバーンはこれまでの魔物とは決定的に格が違う。空を飛ぶし、硬いし、風と火の魔術を使うし、くちばしと爪と尻尾の物理的攻撃力も高い。

 もういくつかのチームがワイバーンに挑み、全チームが敗退している。大ケガを負った者もいれば、死んだ者もいる。

 協会としてもどうにかしてこれの攻略を成功させたいところだ。

 僕と幹彦も、チャレンジする気ではいる。

 そんな時、チーム天空が名乗りを上げた。いや、僕達に挑戦状を突き付けて来た。「どちらが先にワイバーンを仕留めるか勝負だ」と。

 やる気ではいたものの、勝負とかする気はなかったので、正直微妙だった。

 しかし、いつの間にか周囲が「元々因縁のあった永遠のライバルの最終決着」などと言い、それでお互いの剣道場の弟子までもが騒ぎ出し、勝負を受けざるを得ない流れになってしまった。

「斎賀の野郎、こだわってやがるな。前よりも酷くなってるじゃねえか」

 幹彦は嘆息して言う。

「斎賀もだろうけど、斎賀の仲間もだよな」

 言うと、幹彦は溜め息とともに頷いた。

「だな。チームを束ねる者としてどっちが上か決着をつけよう?チームったって、こっちは2人と1匹じゃねえか。勝負にしてはおかしいだろ」

「取り敢えず勝って溜飲を下げたいんだろ」

 僕も呆れて、苦笑した。

 チビはフンと嗤って言う。

「私がよもや、子犬の皮を被ったフェンリルだとは思ってもいないだろう?なあに。私がやつらの有象無象20人分やそこら、力を貸してやろう」

 チビもなかなかの負けず嫌いなようだ。

「ま、これで決着が付いてスッキリすると思えばいいか。幹彦だって、いつまでも永遠のライバルとか言われるのも鬱陶しいだろ?

 勝って、永遠に下へ置いてやろう」

 幹彦が笑う。

「史緒も意外と負けず嫌いだもんな」

「幹彦もだろ?」

「ああ。負けられるかよ。勝つぜ」

 それで僕達は、作戦を練り始めた。

 まずはいかにして地上に引きずり下ろすかが問題だ。これまでのチームは、襲って来たところでロープを足や尾に巻き付けるという方法をとっていた。

 次に攻撃を防ぎつつ、こちらの攻撃を通らせる事になるのだが、これも難しい。硬いし、スキルで魔術を得た者もいるが、効く前にワイバーンからの攻撃でこちらが薙ぎ払われ、逃げられるというのがパターンらしい。

「やりがいがあるじゃねえか」

 幹彦はそう言って笑った。


 ズラリと天空のメンバーが並び、向かい合うように僕と幹彦とチビが並ぶ。そしてそれを取り巻くようにして、ギャラリーがいた。

 ダンジョンへ入るゲートの手前だ。

「天空と周川さん達は今から同時にダンジョンに入り、どちらかが先にワイバーンのドロップ品を持ってここへ戻って来たら終了。同時なら、数や状態で判断する。どちらも6時間以内に狩れなかったら、その他の魔物の魔石の数で決める。エレベーターの使用は禁止。

 それでいいですね」

 一応仕切り役になっている探索者がそうルールを確認した。

 協会は勝負という形にいい顔をしなかった。天空は色々と苦情の多いチームで、もしもここで負けて大人しくなればという気持ちはあったらしいが、天空が勝てば逆効果だ。

 それに、こういうやり方は安全とは言えない。

 しかし、探索者が勝手にするのに、一言注意する事は出来ても、禁止することはできない。

「ああ」

 斎賀が幹彦を睨みながらも余裕の笑みを浮かべて返事をすると、幹彦はどうという事もなさそうに

「はい」

と返事をした。

 このルールを聞けば、人数の多い天空がどうしても有利に思える。

 だが要は、ワイバーンを狩ればいいのだ。ワイバーンを狩れば、ほかにどれだけ魔物を狩っていようと関係ない。そうなると、天空には確かに人数は多いが、飛んでいるものをどうにかできるような者はいない事もわかっている。

 なので僕達のする事は、ワイバーンを狩る事だけだ。

「行こうぜ、史緒、チビ!」

 スタートの合図と共に、僕達はダンジョンのゲートに突入した。






 

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