第69話 空を見ろ!
またいつものダンジョンへ戻った。
アンデッド・ダンジョンは確かにドロップ品が変わっていたが、「幼女の大腿骨」とか「襲撃を受け難くなる数珠」とか僕達があまり欲しい物でもなかったので、旨味を感じなかった。
「やっぱりここが落ちつくなあ」
言いながら、スパンッと走って枝を鞭のようにして攻撃して来る樹の魔物を斬る。
これはいい建築素材などになるらしく、買い取り価格もいい。
「だな!エルゼのが魔物の強さで言えば一番で、次がここだな、行ったところでは」
幹彦も笑いながら樹を斬って行く。
「まあ、魔素の濃さがな」
チビも言いながら、無造作に腕をふるって爪で樹を斬る。
こうしている所を見ると簡単そうだが、枝は邪魔だし、当たり方によっては骨くらいは折れる。その上幹は硬く、普通の刃物では斬れない。厄介な魔物らしい。
魔石とドロップした丸太をバッグに入れ、ふうと息をついて水分補給をする。僕と幹彦はペットボトルだが、チビには皿に水を出してやる。
それで辺りを見回してみれば、うっそうとした林の中に所々切り株があり、どこかホラーじみていた。
「そう言えば、アンデッド・ダンジョン、不人気なんだってな」
言うと、幹彦は当然だろうと頷いた。
「ゾンビの魔石も取らないと危ないって協会に言っただろ?それで、入場時間に応じて魔石をカウンターに出すようにしたんだって。そうしたら、ガイコツフロアばっかりに人が集中してるらしいぜ」
「まあな。大概の奴は、ゾンビの胸に手を突っ込んで魔石を取るのなんて嫌がるだろうしな」
チビが同意しながら、僕を見た。
「だから、わざわざゾンビの魔石を取るっていう依頼を協会が出す事になったんだってさ」
「それでも集まらなかったら、探索者の義務とか、何かした時の罰則とかにするって話だな」
幹彦とチビは言いながら、絶対に行きたくないというオーラを醸していた。
「そりゃ、僕だって進んで行きたい所じゃないよ。オーケー。皆、クレームとか受けないように気を付けような」
僕達はしっかりと頷き合った。
それからしばらくサイやカバの魔物を狩り、魔石とドロップ品を拾って次を目指す。
「サイとかカバとか、何かのんびりゆったりなイメージがあるよなあ」
「意外と早いよな」
「角や牙も危険だしな」
言い合いながらも周囲を警戒する。
まあ警戒は、チビと幹彦があれば大丈夫だ。
「これまでにもいた動物が魔物化したようなものが割と多いよな。何か、ファンタジー色の強い魔物っているのかな」
ふと思いついて言うと、幹彦もああと言った。
「唯一な感じなのが、ゴーレムかな。ロボット的な」
「そうそう」
するとチビが、上を見て言った。
「じゃあ、例えばああいうものはどうだ?」
「うん?」
「ああいうもの?」
僕と幹彦もひょいと上を見た。
そして、口をパカッと開けて、それを見た。
「何、あれは!?翼竜!?」
悠々と空を──ダンジョンの中だというのに高い空があるという不思議にはもう慣れた──飛んでいるのは、大きな骨ばったような翼に鋭いくちばしと長い首が特徴的な、鳥のようで鳥じゃない何かだった。
「あれって前チビが獲って来たエイみたいなやつだよね?」
「ワイバーンだな」
チビが落ちついて答えるが、幹彦はそれで興奮していた。
「ワイバーン!?すっげえ!」
子供のようになっている。
そのワイバーンはトンビが飛ぶように悠々と空で八の字を描いていたが、いきなり急降下したと思ったら地表をかすめた後急上昇に転じた。よく見るとくちばしには何かを挟んでいる。
「イノシシか」
僕も幹彦も、一瞬言葉を失ってから叫ぶように言う。
「イノシシ!?あいつイノシシを襲うの!?あんなに簡単に!?」
イノシシは突進力が強く、早く、牙も鋭い。正面から1対1でやり合うには油断できない相手だし、大抵は複数人で、何度も攻撃を重ねて倒す。初心者などはケガもしかねない。
幹彦なら何度も攻撃を重ねて倒すし、僕なら薙刀だと打ち負けそうなので、魔術頼りだ。
「一撃かよ」
幹彦が呆然として言うが、その声にはまぎれもなく興味が含まれていた。
「幹彦。あれとやり合いたいとか思ってる?
いや、やり合わないといけないとは思うんだけど」
聞くと、幹彦はキラキラと目を輝かせて答えた。
「ええ?いや、別に?危ないやつだし?」
嘘つけ。僕はひっそりと嘆息した。
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