第68話 ヤシガニ
カニと睨み合う。
「そう言えば、ヤシガニは陸上生活するんだったな。沖縄に行った時に見たぜ。ヤドカリの仲間とか言ってたな、ガイドさんが」
幹彦が言う。
「沖縄か。いいな」
「ああ。それに、確か食えるんだったかな?」
「ふうん。でも、こいつもヤシガニってことでいいのか?」
ハサミが1対、足が3対で、胴体は両手を回しても届きそうにないくらいあるし、全長は3メートル近くありそうだ。色は大体茶色で、緑や黒の線が入っている。少なくとも、沖縄のヤシガニはこれより小さいに違いない。
「わからん。チビ、食えるのか?」
チビはううむと唸り、答えた。
「何せ硬いし、食おうと思った事が無いからなあ」
「じゃあ、ゆでてみようよ」
それで決まった。
風の刃でハサミを斬り落とそうとしてみるが、弾かれた。
「風の耐性持ちか」
チビが舌打ちをする。
「火には弱そうだけど」
火を飛ばしてみる。
「耐性があるね、やっぱり」
肩を竦める。
「じゃあ、物理だぜ!」
幹彦が刀を振るが、歯が立たない。
「固え!サラディードじゃなかったら折れてたかもな」
幹彦は悔しそうに言った。
水で包んでも窒息は狙えそうにない。
いや。
「ウォーターカッターならどうかな?」
飛ばしてみようとしたが、ビョンと跳んで来て、薙刀でハサミを受け止めるので精いっぱいだ。
「うわあ!足が!気持ち悪い!足!」
3対の足が蠢いて、当たりそうだ。
「史緒!このカニ野郎!」
幹彦は刀を振るが傷も付かず、カニも気にも留めない。チビの爪でも無理だった。
「ウォーターカッターとは何だ?」
チビが訊き、それどころではない僕に代わって幹彦が応える。
「高い圧力をかけて水を吹き出すものだよ。何でも斬れるんだぜ」
言って、ふと刀に目をやった。
そして、
「そうか」
と呟いて、なにやら唸り始めた。
「幹彦!チビ!早く!何とかして!重いよ!」
僕は力比べに限界が来そうだ。
と、幹彦が、
「うおおおおお!」
と叫んで刀を振り上げた。
刀がいつもと違う。そう思った時には、刀が振り下ろされてカニの頭が飛んでいた。
「やった!」
カニは後ろにひっくり返って、しばらくしたら動かなくなった。
カニも収納バッグに入れ、ギルドへ戻る。そしてサルの魔石と尻尾、カニを出す。
「これ、食いたいんだけど。魔石ってある?」
幹彦がカウンターで訊くと、いつもの職員は目を瞬かせてから言った。
「大きいですね。魔石は目と目の間にありますよ。あと、外骨格はいい盾や防具の素材になりますから、買い取り価格もそれなりにします。傷の有無などを確認してからになりますが。
あと、肉には毒がありますので、食用にはできません。
魔石も取り出すなら、こちらで解体しますか」
食べられないと聞いて、僕も幹彦もチビもガッカリだ。
「はい。お願いします」
すっかり元気も無くした僕達だった。
その日の夕食は、カニコロッケだった。かにかまをほぐしたものと豆乳のベシャメルソースを混ぜてパン粉を付けて揚げた、なんちゃってカニコロッケだ。
「どこかに海産物の採れるダンジョンってないかな」
幹彦がカニコロッケを食べながら言う。
「それより、今日の幹彦の攻撃は凄かったな!必殺技だな!」
言うと、チビも、
「うむ。よくやった」
と褒め、幹彦は照れながらも胸を張った。
「へへっ!いやあ、できて良かったぜ」
新必殺技の完成に、乾杯をした。
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