第67話 サルとカニ

 日本のダンジョンでも、とうとうほかにも収納バッグとプリンの実が出た。

 僕達は待ってましたと、収納バッグもプリンの実も解禁した。

 収納バッグが高い事は知っていたが、プリンの実も高かった。プリンの実もポーションも、定期的にドロップ品として売ろうと考えてしまう。

 探索者専用マンションも無事に出来上がり、入居が始まった。全室すぐに埋まっており、来月からの家賃収入でのローン返済は順調に行きそうだ。

 が、それも、裏の採掘ダンジョンにかかっている。

「ああ。どうか討伐される事も氾濫する事も無く、長く続きますように」 

 エルゼにある教会で、見物ついでに拝んでおいた。ギルドへ行くと、「教会へ薬草とニジハネトリ5羽を届ける」という依頼があったので、虹色の鳥を捕まえ、薬草を採取し、届けに来たついでに見学していたのだ。

「熱心に祈ってらっしゃいましたね」

 シスターが現れた。

 シスターミミル。治癒ができる魔術士で、教会が運営する治療院で働いている若いシスターだ。治癒の魔術も使うが、ポーション作りもしていると聞いた。

「まあ。我々冒険者は、安全祈願しないと」

 幹彦がそう言う。

 知っているぞ。幹彦が祈ったのは「新たな必殺技を編み出せますように」で、チビが祈ったのは「美味い肉が食いたい」だという事を。

 踏まれないようにチビは抱き上げており、ミミルはそのチビを指で突いてから、胸の前で祈る時にする四角形を指で作り、

「あなた方に女神様のご加護がありますように」

と唱えた。

 それで僕達は教会を出て、近くの丘に向かった。そこにサルの魔物が住み着いて、畑や家畜の被害が出ているらしい。

 チビは散歩するような足取りで歩きながら、レクチャーする。

「何といっても、すばしっこい」

「弱点は?」

「火には弱いな。でも、林が焼けるから火をばらまくのはまずいぞ」

 僕と幹彦はなるほどと頷いた。

「動きを止められれば焼けるし斬れるだろうけど、どうやって止めるかだな」

「こっちも動くしかねえかな?」

「何か、しんどそうだなあ。不意を突くとかできないかな」

 言っているうちに、幹彦がピクリと肩を揺らして林の方を見た。

「来たぜ」

 楽しそうだ。

 チビも伸びをして、

「ちょっと運動するか」

と呟く。

「頑張ってみるかな」

 跳んでいる最中を狙おう。

 考えているうちに、林の木の枝にサルの群れが現れた。

 ニホンザルよりも大きく、チンパンジーよりは小さい。そして、どこかヒトを馬鹿にしたように歯をむき出して笑った。

「腹が立つ野郎どもだな!行くぜ、史緒、チビ!」

「おう!」

「おう!」

 まず氷の球をばら撒くと、跳んで逃げようとする。それを狙って火の球を撃とうとしたが、尻尾で巧みに方向を変えて避けられる。

「器用なやつだな」

 腹が立つが、感心もした。

 幹彦は飛剣を飛ばしてから避けた先へと刀を振るう。

 チビは器用に爪で斬撃を加えていた。

「当たらない!キイー!」

 視線の先には、ニヤニヤしたように見えるサルが、お尻を見せて尻尾を振っていた。挑発だろう。

「貴様。後悔させてやる」

 僕は大きな水の球を撃った。サルは慌てて逃げようとしたが、多少跳んだところで逃げられないほどの大きさの水球だ。

「フフフ。逃げられない大きさにすればいいだけだ」

 サルは水の中でもがき、溺れ、やがてぐったりとして沈んで行った。

 幹彦もチビも奮闘し、どうにかサルの群れを片付け、魔石を取り出し、尻尾をちょん切る。

「手こずらせやがって」

 幹彦はそう言うが、見事なものだった。

「幹彦は凄かったよな。背中とか頭のてっぺんにも目が付いてるみたいな動きだった」

 言うと、幹彦は満更でもない顔で照れ、チビは、

「フミオは大人げなかったな」

と短く言って嘆息し、幹彦は吹き出した。

 が、幹彦が

「ん?」

と言って目を林の中に向けた。

「カニ?林に?」

 そこにいたのは、巨大なカニだった。


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