第62話  再会

 カエルの残した収納バッグは、恐ろしいほどの金額になった。それを何とか解析したいと思う学者たち、解析してコピーして製品化したいメーカー、便利になるからという冒険者たち、珍しい物だから欲しいという金持ちたち。

 しかしそんな彼らが競り合って付いた値段に比べ、性能はそこまでよくもない。

「何か、悪いな」

 ぽつりと幹彦が言って、ニヤニヤとしながらボディバッグを撫でる。

「こっちだとどのくらいの値段で買うんだろうな」

 僕も笑いながらボディバッグを眺める。

 容量無限、時間停止の術式の構築に成功した僕は、動くのに邪魔にならないカバンを探し、このボディバッグを買った。そして、術式を刻みつけたのだ。

 僕は空間収納庫に時間停止の機能を追加し、入り口をカバンの中にして、収納カバンに偽装している。空間収納能力は珍しく、少なくとも地球にはいない。なので、目立たないようにしたのだ。

 ついでに幹彦のカバンには使用者を限定する術式も付けたので、万が一盗まれても大丈夫だ。

 ただ、問題もある。元々地球ではダンジョンの外で魔術は使えなかったが、このボディバッグもそうだった。その点ではカエルの落としたバッグも同じだ。恐らく魔道具の類は、作ってもダンジョン内でしか使えないだろう。

 それはそれでいい。もしダンジョンの外でも使えるなら、犯罪者は暴れまくりだし、万引きし放題になりかねない。

 まあ、買い物が楽になるのではという希望は潰えた。

「エルゼではこっち以上には出回ってるみたいだから、そう気にせずに使ってもいいな」

「そうだな。でも日本では要注意だなあ。

 でも、使えると楽だよな」

「その内低ランクのものが出回るだろうし、ドロップしたと言っておけばいいんじゃないか」

 チビが言い、それでいこうかとなった。

「じゃあ、気分転換に別の所に行かないか。そこはちょっとドロップ品の毛色も違うらしいぜ」

 幹彦の提案で、別の所へ行ってみる事にした。


 家から車で1時間半ほど走ったところにそのダンジョンが現れる。

「ここかあ」

「ダンジョンができる場所って、本当にわからないな」

 元は映画館だったというそのダンジョンの周りにはホテルやショッピングモールがあり、賑わっていた。もしここで氾濫でも起こったらと、考えるだけでゾッとするような場所だ。

 歩いている人の多くは普通の人で、そこに武具を背負った人が混じっている。

「ここは人型のアンデッドが多いらしいぜ」

「昔死んだ武将とか?」

「かも知れんな」

「アンデッドかあ。それ、ガイコツとか腐乱死体とかの事だよな」

「そうだな」

 チビが頷くのに、僕は嘆息した。

「臭いが凄いんだよなあ」

「確かにそんな事を聞くよなあ」

 幹彦も嫌そうに顔をしかめた。

 そんな僕達に、声がかけられた。

「周川か」

 声の方を見ると、ワンボックスカーからゾロゾロと降りて来る探索者チームがいた。全員剣を持っている、偏ったチーム編成だった。

「斎賀か?」

 話に出たばかりの、幹彦のライバルだった斎賀弓弦だ。様子からすると、彼がリーダーらしい。

「久しぶりだな!元気そうじゃねえか!」

 幹彦がフレンドリーに話しかけたが、斎賀は硬い表情を崩さず、周囲の皆は斎賀を守るように立ち位置を変え、警戒心も露わに睨みつけて来る。

「え?」

 戸惑うのは僕と幹彦だ。

「探索者第一期生に入っていたようだな。道場はお兄さんが継いだそうだが、やっぱり剣道は続けていたのか」

「いや、実家に帰った時、たまにくらいだったかな」

 斎賀はフンと嗤った。

「それじゃあ、知れてるだろうな。

 俺達はここを先へ先へとトップに立って潜っている。ここを狩場にするのはやめておいた方がいいぞ。臭いがどうとか言ってビビってるようなお上品なボンボンはな」

 斎賀はそう言うと、仲間を引き連れて更衣室の方へと歩いて行った。

 それを呆然と眺めていたが、チビが小声で訊く。

「あれが斎賀とやらか?友人とは言えないようだな」

「まあ、ライバルと呼ばれてたな。周りの奴らからは」

 幹彦は辟易したように嘆息した。

「もうガキじゃないから大丈夫とか言ってたけど、向こうは相変わらずだったね」

「ガキか、あいつは。

 まあ、いいか。気にしないで行こうぜ」

 僕達はそう言って、更衣室に向かって歩き出した。


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