第63話 アンデッド・ダンジョン

 昔から幽霊に効くものと言って思い浮かべるものは、塩、お経、お札、聖水辺りだろうか。それでダンジョンでアンデッドが確認された時に、やってみたそうだ。

 お経はまるで効かなかったというか、聞こえているのかどうかも怪しいらしい。

 塩や聖水もダメだったというし、お札は貼り付けるのがそもそも難しいし、自分がお札を持っていても効果は無かったとか。

 そこで今では、ガイコツは心臓があった辺りに魔石ができており、ゾンビは心臓の近くに魔石ができているので、それを取り出す事となっている。元々死体だからか、倒しても消えて勝手に魔石を残したりはしない。自分で取り出さないと、いつまでも、何度でも甦って来るのだ。

 ただ、ガイコツの場合は殴って骨をバラバラにすれば組み上がるまでの間に魔石を取れるので比較的楽だが、ゾンビの場合は斬っても殴っても痛覚が無いので、頭を切り離すか体を動けないほど切り刻むかし、その上で、胸を開いて手を差し入れ、魔石を取り出さなくてはならない。

 それで一部の探索者は、倒しても倒しても魔石を取らなければ甦るのを利用して、「修行場」として使っているらしい。

「じゃあ、ここに入る人って、全員自分で魔石を抉り出せるんだな」

 言うと、幹彦はいいやと首を振った。

「ガイコツは崩したら組み上がるまで時間がかかるから、その間に立ち去れるらしい。まあ、そこまでグロい感じはしないから、魔石を持ち帰る奴は多いだろうな、最後に。

 ゾンビは取り敢えず切り刻むか潰すかすれば復活まで時間がかかるらしいから、その間に立ち去るらしいぜ」

 免許証をかざしてダンジョンの中に入り、進みながら話していた。

「ふうん。でもそれじゃあ、いつか氾濫とか起こらないのかな」

 言うと、幹彦は首を傾けた。

「さあ。でも、その可能性はあるよな。まあ、ガイコツは倒すにしてもなあ」

 言っていると、出て来る。ガイコツだ。

「うわ!面白い!動く骨格標本だよ、幹彦!ははは!

 あ。骨格標本は頭は女性なのに首から下は男性なんだけど、こいつらはちゃんとどっちも同じだ」

 怖くもなんともない。

 薙刀で気楽に突き、払い、魔石を取った。幹彦も苦労する事も無いし、チビは暇そうに頭を掻いていた。


 進んでも、低層階は骸骨ばかりだった。

 やはりこの低層階にいるのは、修行目当ての者か、スカッとしたいという者が多いようだ。

「この次の階からは、ゾンビになるってさ」

 幹彦が言い、僕は淡々と、チビは仕方なく頷く。チビの方が鼻が利くので、臭いは辛いだろう。

「帰る前に施設内に風呂があるらしいから入ろうな、チビ」

「はあ。絶対だぞ」

 チビが小声で念押しする。

 シャワーくらいならほかでもあるが、しっかりとした風呂というのはここだけだ。ここにはそれがないと臭いが取れず、誰も来なくなるだろうというのが明らかだからな。

「よし。風呂を楽しみにがんばるか!」

 幹彦がそう言って、僕達は先へと向かった。

 しかし、広くなった場所に15人ほどおり、剣呑な雰囲気だったので足を止めた。

 どうやら、4人対11人らしい。

「確かにとどめを刺したのはそっちだけど、元々僕らが相手をしていたのに入って来たんじゃないですか」

 4人の方が言うと、11人の方は鼻でせせら笑った。

「加勢してやったのに恩知らずだな?」

「加勢して欲しいなんて言ってないでしょう」

「状況判断ってやつだろ。返事もできないほどピンチに見えたんでね」

 それに、4人の方の1人が、ケガをしたらしい腕を押さえて1歩引いた。

「死んでから加勢した方がよかったのか、そちらさんは?」

「そんな事は言ってない!ぼくらでやれたって──!」

「はいはい。後ではどうとでも言えるわな」

「そうそう。今から本気を出すところだったとか?」

 それで11人の方はぎゃははと笑い出す。

 見るからに危なそうでも、声をかけて「助けてくれ」という返事をもらってからでないと手を出すなという、典型的なもめごとらしいと僕達は見ていて思った。

 しかし、4人の方が諦めて11人の方が立ち去った後、単純なもめごとではなかったと知った。




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