第52話 修行というのも男のロマン

「ほらほらどうした?」

 煽るように言いながら、涼しい顔で水球を飛ばしつつ剣でも攻撃して来るのを、幹彦は避けようとしたり、隙を見て攻撃しようとして失敗し、水浸しになっている。

 魔術士相手の戦い方を練習するのは、地球でよりもエルゼだろう。そう考えた僕達は、エルゼで特訓する事にした。

 まだ僕は魔術が使えるので、どうとでもなる。より問題なのは幹彦だった。

 幸いにもエルゼに戻ってすぐにモルスさんと再会し、セルガ商会の護衛をしていた彼らに会って、どうしているのかアドバイスを求めたら、こうして訓練に付き合ってくれる事になったのだ。

 それに知らなかったが、セルガ商会というのはエルゼに本店がある老舗の大きい商会だったらしい。

 皆が知っているような大商会で、知らなかったというのは不自然だったので、「ああ、あの」という体を装った。

「身体強化が効くから強引に避けようとするんだよなあ。でも、飛んで来る魔術が石ころひとつ、水球ひとつとは限らないからな」

「防具でどうにかするっていう手もあるわよ。魔術無効の付与の付いたものを使うの」

「でも、相手の魔術無効を破らないと攻撃が通らないからなあ。やっぱり何かしらの手は必要だ」

 皆、ああでもないこうでもないとアドバイスをくれる。

 彼らはどうしているのかと訊けば、魔術を防ぐのは防具か魔術無効のスキル、攻撃を通すのは、より強い力と答えた者もいるし、通る攻撃手段でチマチマと答えた者もいた。

 ただ、幹彦は完全な近接戦闘者で、僕が近接戦闘から遠距離戦闘までできるとは言え、2人組だから、幹彦も何かしらの中距離戦闘の手段があった方がいいと言われた。

 そこでこの特訓だった。

 その他にも、僕はほかの術式も見ようと本を見、それらから術式を自作しようと試みていた。

 そんな風に、僕達はエルゼで修行を行っていた。

 チビ?昼寝とおやつに忙しそうだったな。


 日本に戻り、日本のダンジョンにも行く。

 日本のダンジョンよりもエルゼのダンジョンの方が、強い魔物がいるように思う。魔素の濃さの違いが原因だろうか。

 エルゼのダンジョンや街の外や魔の森で魔物を相手にしている経験があるせいだろうか、僕と幹彦は、気付くと日本のダンジョンでは一番先に進んでいるらしいし、比較的落ち着いて対処できている。

 それも、日本のダンジョンではエルゼほどに魔術を使って来る魔物はまだ出て来ないからで、いずれはエルゼのように、魔術無効を持つ魔物も出て来るのだろう。

「くそう。エルゼほどいやらしい奴は今の所いないけど、いつかは出て来るんだろうな。それまでに何とかしねえとな」

「焦らなくてもいいと思うよ」

「なんの。修行ってロマンを感じねえか?」

 子供の頃から剣術に没頭して来た幹彦ならではの感性なのだろうか。

「ええっと、そう、かも。うん」

 僕はどちらかと言えば、まず理論を納得してからの方が理解も習得もしやすいタイプだったので、何とも言えないが。

「よおし!やるぞ!」

 幹彦は、必殺技を練習する小学生みたいな顔付きをしていた。


 そうして魔物相手に色々と試したりしていたが、その日出くわしたのは、カマキリの大群だった。

「デカい!気持ち悪い!」

 僕は見るのも嫌な気分だったが、ここを突破しなければ先には進めないし、逃げ出したところで、背中から攻撃されそうなのは確実だった。

「しかたねえ。やろうか」

 幹彦が言い、チビも大きくなる。

「カマがどうにも鋭そうでヤバそうだな」

 言ったそばから、羽を広げて素早く接近して来ながらカマを振り下ろす。それを避けているうちに、気が付くと僕と幹彦とチビは、完全にバラバラになってカバーし合うという事ができない位置になってしまっていた。





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