第53話 ピンチはチャンスではなくやっぱりピンチだと思う
「諦めるな!ピンチはチャンスだ!」
幹彦が言うが、カマを必死で避け、弾きながら、
「ピンチはやっぱりピンチだよ!」
と叫ぶ。
カマキリは立ち上がると2メートルはあり、カマを振り上げるとさらに大きい。こんな化け物サイズのカマキリを見たら、子供でも、二度と昆虫採集などしたくなくなるに違いない。
どうやら火に弱そうだが、下手に火を点けると、そいつが飛んで行って火が広がったら、こちらも焼死しかねない。なのでここは大人しく薙刀で何とかしないといけないようだ。
しかし、斬っても斬ってもカマキリが襲って来る。何匹片付けたのかなんて、数えている暇も余裕もない。カマは鋭いし、体は硬いし、飛ぶし、大量だし、嫌なやつらだ。
あとどのくらいやれば終わるのか。そんな事をちらりと考えたのが隙になったのだろうか。薙刀の刃が関節を斬ったあと外骨格に食い込んで、抜けるのが遅れた。それを狙っていたかのように、横合いからカマキリがカマを振り上げて襲い掛かって来る。
それがスローモーションのように見えた。
ああ、これに斬られるのかな。スパッと行くのかな。当たりどころによっては、死なずに動けないだけになりそうだ。そうしたら寄ってたかって斬られるのだろうか。
鋭利な刃物のようなものだから切り口はきれいだろうな。
そんな事を高速で考えていたら、どこかから飛んで来た風の刃によって、そのカマキリの上半身が斬れてずり落ちた。
それを見た瞬間、取り巻く時間感覚が戻ったようになり、同時に食い込んでいた刃も抜けたので、近くのカマキリを斬る。
そうして大量のカマキリを片付けていき、逃げ出したのを追いかけようか燃やしてしまおうかと考えた時、幹彦が刀を鋭く振った。
するとそこから風の刃が飛んで行き、カマキリをきれいに寸断した。
「ああ。やっと片付いたぜ」
幹彦がやれやれと言いながら刀を振って納刀する。
「幹彦!さっき助けてくれたのって、今のやつ!?ありがとう!凄いな!」
言うと、幹彦は照れたような得意そうな顔をして、頬を掻いた。
「へへ。やればできるもんだな!」
チビは手を舐めて近付いて来ると、目を細めた。
「よくやったぞ。ミキヒコは魔力を魔術にはできないからな。魔力を風のように放ったのがあれだ。考えたな」
それに首を傾ける。
「魔力を魔術に?ん?」
「何ものにも魔素が宿っている。この地球ではその限りではないが、ダンジョン内においては、そういう状態になる。そして、その魔素を取り入れたものが魔力だ。その魔力に法則を持たせて任意に外に出すのが魔術。
例えばフミオは、魔力に術式を書きこんで魔術として外に出す事をしている。
ミキヒコは、これまではその魔力を体の機能をあげるとか内側にしか使えていなかった。身体強化というものだ。これを、術式を書きこめないまでも、刀という媒体を通して魔力のまま飛ばしたものが、さっきのあれだ。
風の魔術と似ているが、風とは違う」
僕達はチビの解説を聞き、
「へえ」
と感心していたが、誰かが来るのに気が付いて我に返り、慌てて魔石とドロップ品をかき集めた。
それにしても、幹彦の必殺技の完成だ。幹彦も僕も、気が付けば笑っていた。
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