第51話 採掘と課題

 マンション裏のダンジョンは、資源ダンジョンだ。資源ダンジョンとは、魔物はいるにはいるが、動物が変化したようなものよりもロボットのようなゴーレムと呼ばれるものが中心で、ドロップ品も金属のインゴットになる。壁にも鉱石を含んでおり、他では壁などを掘る事はできないが、ここでは壁を掘って採掘する事ができる。ただ、時間が経てばその穴も塞がれるらしい。本当にダンジョンというのは不思議なものだ。

 そんな事を考えながら、僕と幹彦はチビに警戒を任せて採掘に挑戦していた。

「固えな!」

 サラディードをツルハシに変化させて幹彦は壁を掘っていた。僕はツルハシを持ち込んでいる。

「爆破はできないっていうのがわからないよ。どうやってかダンジョンが判断してるのか?」

 言うと、幹彦は肩を竦めた。

「どこからか試験官が見てるのかも知れねえぜ。

 さあ、もういっちょやるか」

 言って、ガンガンと壁を叩き始めた。

 よそからも、採掘のために壁を叩く音が聞こえる。銅や鉄がインゴット状で見付かっているほか、ルビーが塊で見付かってもいる。掘り出され方が地球で知られた形ではないが、インゴット状でみつかるなら加工が楽だとでも思えばいい。

「いいもの出ないかなあ」

 言いながらも、自分のくじ運の悪さを思えば、碌なものはでないだろうとの嫌な予感はする。

「まさか、オリハルコンとかヒヒイロカネとか大それたものを頼みはしないし、ルビーとかダイヤとか身の程知らずなものも頼まない。でも、初めての採掘なんだから、何か出て欲しい。石ころ以外で」

 神頼みしてみながら掘っていると、幹彦はゲラゲラと笑い出し、チビは同情するような目を向けて来た。

 しばらく掘っていると、違う音がした。

「ん?何かあるぞ?」

 幹彦とチビも、何が出るのかと近寄って来て、手元を凝視する。

「運が向いて来たかなあ、ようやく」

 ドキドキウキウキとしながら掘り進め、ようやくそれは姿を現した。

「……石英かな?」

「珍しいものなのか?私はよくわからんが」

「よく墓石とかになるやつじゃないかな」

 珍しくもなんともない……。

 幹彦はこぶし大のルビーと銀のインゴットを掘り出し、初の採掘作業は終了した。

 こんなもんだよと、僕は掌の肉刺を見て嘆息した。

 その時、幹彦が表情を引き締めて

「何か来るぞ」

と言い、チビは満足そうに、

「フン。よく警戒を解かずにいたな」

と言った。

 チビと幹彦が警戒している方向を見ていると、鈍く光るゴーレムが現れた。

「昔のロボットアニメみたいだな」

 幹彦が呑気にそう言う。

 まあ、確かにそう見える。「懐かしの昭和のアニメ」に特集されていそうな感じはする。

「やたらと頑丈だから気を付けろ。それとものによっては、魔術を使って来るぞ」

 チビがそう言うのと同時に、風の刃が飛んで来た。

「危ねっ!」

 サッと避け、まずは幹彦が接近して斬りつけるが、傷がつかないほど硬い。

 ならばと炎を浴びせてみたが、変化は見られない。

「そうだ。高温と冷却を繰り返すと脆くなるな。やってみる」

 僕は炎を浴びせては次に凍らせて、また炎をと繰り返して行く。ゴーレムは炎を受けても平気そうにしているし、凍らせても力任せに氷を砕いて攻撃してくる。それを、チビは僕と幹彦の前で盾のように障壁を張って防いでいる。

 我慢比べのような時が過ぎ、やがてゴーレムから異音がして、腕がゴトリと落ちた。やっと、温度変化が金属の劣化を起こさせたらしい。

「幹彦!」

「よっしゃ!」

 幹彦は飛び出して行き、刀を一閃させる。

 それで足を斬られてゴーレムは地響きを立ててうつ伏せに倒れ、幹彦と僕とで倒れて何もできないゴーレムに攻撃を浴びせかけた。

 そのうちにゴーレムは光って形を崩して消え、魔石と金属塊を残した。

「はああ。やっとかぁ」

 幹彦が嘆息して言う。

「硬いと厄介だな」

 僕もホッとしながら言って、魔石と金属塊を拾う。

「でも、硬いだけじゃねえな。これまで、魔術を使って来る魔物ともやり合った事はあるけど、これほど連続して使って来る事はなかったからな」

 それにチビが付け加える。

「これまでは幸いにも、その前に倒すことができていたからな。言わば、そこまで格上のやつとはまだやり合ってないという事だ」

 それに、幹彦も僕も、やや落ち込んだ。

「まだまだって事だな」

「ああ。ちっ。本格的に魔術を使う相手との戦い方を考えねえとな」

 そう言って、僕達は帰途に着いた。






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