第41話 新人冒険者の内職
新人冒険者として活動を始めた僕と幹彦だったが、異世界は何もかもが珍しく、新鮮だ。
「フハハハハ。できたぞ、幹彦」
錬金水というものをまず作れるようになると、そこから錬金術ができるようになり、ポーションの合成などができるようになる。
そして今僕は、体力回復薬、魔力回復薬、治癒ポーションを上級まで合成する事に成功した。
薬草採取のかたわら、自分の家庭菜園に移植する用にも採取してきたので、いつでも、出かけなくても薬草は家にある。錬金水とは水から魔術で不純物を取り除いて純水にしたもので、不純物がないほど薬草などの成分を取り込みやすく、価値が高いものになる。魔力も多いし、日本なら水は豊富だ。ポーション作りには今後困る事は無い。
「これが10万円か」
中級の治癒ポーションを見ながら、僕は複雑な気分になった。魔力の値段はつけようもないが、水と薬草数種類。原価はそんなにしない。
「でも、これまでなら即治る事も無かったケガがすぐに治るんだから。その価値はあるぜ」
幹彦はそう言う。
「例えば戦いの最中とかでも、これを飲むか掛けるかすればいいんだからな」
チビもそう言う。
「まあな。
こっちでドロップした場合、どういうビンに入ってるんだろうな。その辺のビンとかペットボトルじゃドロップ品じゃないってわかるし、向こうで売った方がいいかな」
「ああ、今はその方が良さそうだな。まだそんなに出回ってないし、まずいだろう」
幹彦が言う通り、ポーション類はそれほどの数がドロップしていない。上級など、まだ存在していない。
「エルゼの方は、入れ物がちょうど似たものがあってよかったよ」
エルゼで売られているポーションが入っているビンは、日本の均一ショップや大手通販会社で売っているガラスビンとほぼ同じだった。
「空ビンを持って来たらいくらか割引するようにしたら、そのうちにこっちでそれほどビンを買わなくても済むようになるだろう」
「エコだな」
幹彦が納得したように頷いた。
そういう幹彦も、ナイフを作ろうとしていた。買いこんだ魔道具を分解してみた結果、僕は魔道具の自作に成功。それで、ポリバケツ程度の大きさの箱の中を特殊な空間にして、魔力を流すか魔石をセットすると内部が高温になる術式を刻み込み、持ち運び可能な特殊な炉にした。これで幹彦は、鍛冶をしようとしているのだ。
男のロマンだと、張り切っている。まあ、わからなくもない。
ポーションもこれでできたナイフ類も、出来たらギルドの売店で売ろうと思っている。
ギルドにはそういう委託販売のコーナーもあり、売り上げの数割という手数料を払えば何かを売ることができるというシステムがエルゼではある。駆け出しの職人などが主にこれを利用して販売しているのだが、冒険者が出品してはいけないという事は無い。
現金収入を増やしたいのは日本ではあるが、そう上手くはいかないものだ。
しかし、単に面白いというのも大きい。僕は魔道具の販売にも着手するつもりだ。
僕達はせっせと内職に励んでいた。
点けっぱなしのテレビでは、ダンジョン近くに建設中の探索者専用ウィークリーマンションの特集が放送されていた。
過去の氾濫の時の映像、無残に崩れたマンションに続いて見学用のモデルルームが映り、アナウンサーが不動産屋の社員に案内されて部屋の中を見て回っている。それで、「近い」「備え付けの鍵付きロッカーも広いし置きやすそう」「洗い場が広いし、備え付けの洗濯機も大型で便利」などと歓声をあげている。
「ああ。ダンジョンが簡単に攻略されませんように」
僕は心から祈った。
同じ番組を、西野麻里も見ていた。
「解剖医よりももっと稼げそうな医者に乗り換えたまでは計画通りだったのに……!」
イライラとして、クッションをテレビに投げつけた。『ダンジョン』というダンジョンにまつわる色々な事を振り返り、検証するという番組で、今は新しくできる探索者専用マンションのモデルルームが映っている。
西野が新しく婚約し直した里中秋人は、最初のうちは西野を大事にしてくれたし、羽振りも良かった。
しかし最近は妙に他人行儀になり、おかしいと思っていたら、別れてくれと言い出したのだ。何でも、もっと若くて美人なパリコレモデルと知り合い、結婚するつもりだという。
「顔だけの女が!」
里中が自分の前に付き合っていた女性医師がやや地味だったのをいい事に割り込んで略奪したのだが、その自分が略奪される側にまわるとは考えた事も無かった。
ブーメラン、または棚上げと、人は言うだろう。
病院内では、計画的に大人しい医師を狙って薬を盛って騙して婚約し、それ以上のカモが現れたから捨てたというのが知られている。流石に院内ではもう結婚相手は見付からない。
いや、意外とこの世界では噂が流れるものだ。要注意人物として自分の名前は流れているかもしれない。そう考えると、割り込んで来たモデルの女が腹立たしい。
そこで、ふとテレビに注意が向いた。
『元は医師をされていた方で、今は探索者をされている方です。それで、探索者が便利な家というものもわかっていらっしゃるんですね、オーナーの麻生さんは』
「は?もしかして、麻生先生?まさか。麻生なんてそこまで珍しい名前じゃないし……」
しかし、探索者第一期生の集合写真がテレビに映り、誰がその麻生かは言わなかったが、知る人には十分だった。
「何で!?
今からでも謝って、騙されたんだって言って、何とか婚約し直そう!」
西野は人生の立て直し策を見付けたと思った。
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