第34話 借金返済計画

 ダンジョンによる打撃は、ダンジョンに支払ってもらう。

「探索者専用マンションですか」

 融資の担当者はそう繰り返した。

「駅とつながるバスもタクシーも凄い列です。近くにホテルもないですし──まあ、ただのホテルには、鍵をかけてしまわなければならない武具をしまう設備もないでしょうから、あっても泊まれるかどうか怪しいですけど」

 それに担当者は真剣な表情で考え込んだ。

「確かに、バス待ちのために早く切り上げないといけないなんて嫌だからな。賃貸マンションがあれば助かるだろうな。ウイークリーマンションだったらもっといいかも。

 でも、同じ事を考えているやつもいるだろうし、早い者勝ちかな」

 幹彦もそう後押しするように言う。

「しばらくお待ちください」

 慌てて席を立って上司の所に行く担当者を、僕と幹彦はニヤリとした笑みで見送った。


 ウイークリーマンションタイプの探索者用マンション。武具を管理するための鍵付きのロッカーを備え付け、広めの洗い場のある浴場を作って防具も洗いやすくする。洗濯機は大きめで、大きくはないがキッチンもあるし、冷蔵庫と金庫は大きめに。

 すぐに工事に取り掛かる事になった。

「ホテルなんかもその内できそうだな。海外ではあるし」

 幹彦は頷き、

「早くから民間の探索を認めてる国は、もうあるもんな」

と言いながら、地下室へのドアを開けた。

 これからエルゼに行くのだが、僕も幹彦もなるべく地味で簡素で天然素材っぽいものでできている服を着ている。これなら向こうでもそう目立たないはずだ。

 今日は向こうでの拠点とする家を探し、契約するつもりだ。

「こっちでも不動産、向こうでも不動産か」

 おかしくなった。

「今は返済でいっぱいいっぱいだろうけど、いずれは賃料で楽になるといいなあ」

「隠居生活か」

 幹彦は少し笑い、僕は頷いた。

「チビはいるし、家庭菜園もばっちりだし、あとはジビエだな」

 プランターでは青じそとバジルが青々と茂っていた。

「そのためにも、いい物件が見付かるといいな」

 チビが言い、僕と幹彦が頷いたところで、精霊樹のガイドでエルゼの精霊樹の枝へと僕達はとんだ。


 この前と同じく精霊樹下の胎内回帰に出た僕達は、しれっとしてそこから出てギルドへ向かう。

 チビは人の生活についてはよくわかっていなかったので、ギルドで訊いてみようという事になったのだ。

 暇な時間帯らしくどこもカウンターは空いていたが、迷わず案内係の男の所へ行く。

「どこかこの辺で家を探しているんですが」

 幹彦が言うと、職員達がザワリとざわめいた。

「家、ですか」

「うん、そう。どこに相談すればいいかわからなくて」

 幹彦が言うと、職員は考えながら言った。

「いえ。宿や拠点の斡旋もしておりますので、構いませんよ。

 ええっと、大きさや間取り、使用人や馬、馬車の数などはどのくらいでしょうか」

 これには幹彦も僕も顔を見合わせ、小声でこそこそと言い合った。

「使用人がいるのが普通なのか?」

「いや、そんなわけない。これはあれだ。一応の確認だろう」

「そうだな、うん。頼むよ幹彦」

 幹彦は改めて職員に向き直り、答える。

「俺と史緒の2人だけで、ほかにはこのチビがいるだけです」

 職員の目が史緒の抱くチビに向く。

「え、これは……まさかフェン──」

「犬です」

 素早く僕は口を挟む。

「でも」

「犬です。犬の、チビです」

「ワン!」

 職員が、悩むような疑うような目をチビに向けていたが、チビが子犬っぽく舌を出して「ハッハッハッ」としながら尻尾を振っていたのを見たせいか、僕と幹彦が堂々としていたせいか、犬でいい事にしたらしい。

「空き家が3軒あります。一緒に見に行きましょうか」

 こうして僕達は、内見に出掛けた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る