第33話 恨み骨髄のダンジョン
先程から、目が合った魔物は体をびくつかせ、どうかすれば逃げ腰になる。
「ここのダンジョンの魔物はおかしいな」
言うと、幹彦がポリポリとこめかみを掻いた。
「いや、史緒の殺気というか、それが強くて、弱いやつがビビるほどなんだけど」
僕と幹彦とチビは、早速発見されたダンジョンへ来ていた。氾濫は終わったと思われるが確認するために探索者の募集がなされたので、それに応募する形でこの憎いダンジョンに来てみたのだ。
ヤケクソというか八つ当たりで、見付け次第攻撃していた。たまたま近くに誰もいない事もあり、好きなだけ好きな魔術を撃ち、幹彦共々薙刀と刀を振り回していた。
それでもマンションのように壊れたりしないのがダンジョンの不思議だ。その場は多少壁などが崩れても一定以上は壊れないし、時間が経つと補修されている。これを住居にでも取り入れれば、さぞ頑丈な建物ができるだろう。
「4階は異常なしだな」
言うと幹彦は頷いて、
「この辺のは小物すぎるな。もう少し進もうぜ」
と、言った。
「何か、ベテランみたいだなあ」
「へへっ、俺もそう思った」
笑いながら5階へと進み、鬱憤を晴らすかのように目に付いた魔物を狩りまわったのだった。
ドロップ品や魔石を換金した僕達は、更衣室で着替えて帰る用意をしていた。
「やっぱり人が多かったなあ。特に今日は解禁初日だからこの近くの人しか午前中はいなかったけどよ」
幹彦はそう、刀を丁寧にバッグにしまいながら言った。
今日の朝から例のダンジョンへ行って来たのだが、午前中は空いていたのに、午後になるとやたらと探索者が増えて来たのだ。
見付けた魔物の数より、探索者の数の方が多い。
「あれじゃあ時間の割に得る物が少なすぎるから、まあ、その内勝手に減るだろうけど」
「皆そう思って、なかなか減らないって事もあるぜ」
「……あり得るな」
僕と幹彦は、肩を竦めた。
何と言ってもダンジョンが少ない。特に今は探索者にさほどの開きがないので、全員が低階層でかち合う事態となっている。
「これじゃあ、魔石とかドロップ品でローンを返すのは難しいんじゃねえ?あっちで貰える金は、こっちじゃ通用しないんだし」
こそっと、小声で幹彦が言った。
「それだよなあ」
頭が痛い。向こうでのドロップ品などをこちらで換金するにも、怪しまれるのが目に見えている。
荷物を持って更衣室を出ると、駐車場の車に向かおうと歩き出す。
ズラリと並ぶ長蛇の列が2本あった。
「何、あれ?」
言うと、幹彦がああ、と言う。
「バス待ちの列とタクシー待ちの列だな」
「へえ。凄いな。今待ってる人だけでも、バス3台分以上いてるだろ?しかもギュウギュウ詰めで乗るんだろ?」
考えただけで酔いそうだと顔をしかめると、幹彦はそんな僕の顔を見て笑う。
「史緒はバスに弱いからなあ」
「バスで遠足の時が本当に嫌だったよ。徒歩で行ける所にすればいいのにって……あ……」
「史緒?」
訝し気にこちらを見る幹彦に、僕はニヤリと笑みを向けた。
「寄り道してもいいか?早い方がいいかな」
幹彦は僕の顔をちょっと見つめ、
「株は危ないぞ。それに宝くじもやめとけ。お前のくじ運は最低だからな。27回連続スカなんてめったにない悪さだぞ」
と大真面目に言った。
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