第21話 チビ先生

「あれか。史緒の魔術ってやつ」

 幹彦がポンと手を打つ。

「まあ、そうだが……そうか。枝を使った簡易の鑑定しか受けておらんのか。

 ちょっと、そこの精霊樹に触れ」

 チビはそう言って、例の木をクイッと示した。

「やっぱりあれが精霊樹か……」

 何とも言えない顔付きで、僕と幹彦は言われるがままに木の幹に手を触れた。すると免許証を入れていた胸ポケットがほんのりと光り出す。

「ああ!?」

 取り出して何事かと確認すると、裏面に字が増えていた。

 幹彦のはこうだ。


   技能

    体力増大

    魔術耐性

    物理耐性

    異常耐性

    魔力回復

    体力回復

    身体強化

    気配察知

    刀剣

    隠密

    自然治癒


 僕のはこうだった。


   技能

    魔力増大

    体力増大

    魔術耐性

    物理耐性

    異常耐性

    魔力回復

    体力回復

    解体

    鑑定

    制作

    魔術の素養


「なんじゃこりゃあ!?」

 2人のひっくり返った声がはもった。

「ああ。こちらにはないものばかりだったな」

 チビはそう言い、解説をしてくれた。

「まず技能というのは、その者の得意とするものとでも言えばいいか。何かを繰り返し修練していれば技能になる事があるし、魔物を倒した時にも、その魔物が持つ技能を得られる事がある。ほかには、特殊な何かをクリアした時に得られる事もある。ただし、魔術師寄りか物理寄りかなどで、得られる得られないがある。

 フミオは魔術師寄りで、ミキヒコは物理寄りのようだな。

 このスライムダンジョンにフミオとミキヒコが入って来て、底の魔物だまりに向かってスライム諸共火を投げ込んだ。火によってまずは火に弱いスライムがはじけ飛び、飛んだ体液に弱いスライムが破裂し──という形で連鎖的にダンジョンボスまで死ぬに至った。それで、色々なスライムを討伐する事で得られた技能とボスの討伐ボーナスとが、魔術耐性、物理耐性、異常耐性、魔力回復、体力回復だ。各個に当たっていれば、そういう特色を持ったスライムがいた事がわかっただろう。

 かなりおかしな攻略の仕方だったが、地球で初めてのダンジョン踏破者なので、フミオは魔力増大と体力増大、ミキヒコは身体強化と体力増大というおまけが付いたのだな。

 神獣たる私の主となった事で私の技能からフミオは空間魔術を得て、ミキヒコは隠密と気配察知を得た。

 それから地球で精霊樹の枝を根付かせて精霊樹にまで育てたことで、精霊樹の治癒が付いたな。

 フミオは魔術師よりなせいで、恐らくスライムからのものと空間、治癒を合わせた結果、魔術の素養になったようだな。

 あとは、フミオは元々、切ったり、よく観察したり、縫い合わせたりという技能をもっていたんだろう。それで、解体、鑑定、制作になったようだな。ミキヒコは剣術に秀でていたから、刀剣だな」

 ちょっとアバウトなんじゃないだろうか。それともこれが、はずみでうっかり地球で最初にダンジョンを踏破したという事になってしまった事へのボーナスなんだろうか。

 幹彦はうんうんと頷きながら免許証の裏面を見ていたが、大きく溜め息をついて、

「まあ、感謝、だな。だよな?」

と言う。

「そうだよな。うん。その、ありがとう」

 半分くらい事故で偶然だし、精霊樹に至っては土に挿しただけで、枯らさずに育ったことが奇蹟的だ。全く実感もありがたみも感じられない。

 気を取り直すようにして幹彦が言う。

「そもそも、ダンジョンがどうして地球にできたんだ」

 チビは面倒がらずに答える。

「異世界とこの世界が接点を持ってしまったためにダンジョンというものでつながり、魔物や精霊樹や私がこっちの世界に移って来た。

 向こうは魔素が全てのものに宿っているので、魔物も自由にその辺で生活している。

 その点こちらには魔素がない。なので、魔物は基本的に魔素の多いダンジョンの外には出ては来られない。

 しかし、放っておいて魔素が外に溢れるようになると、魔物も外に出る事ができるようになる。いわゆる、スタンピードと呼んでいる現象だな」

 常識のように言われても、と思ったが、幹彦は納得したように頷いていた。

「精霊樹というのも、ダンジョンに生えるものなのか?他にも根付いているのか?」

「まあ、魔素の多い土地に根付いてはいるが、ダンジョンには生えていないな。

 精霊樹は魔素の濃い所でしか生育できない。しかし、魔物は精霊樹を嫌い、精霊樹は魔物を嫌うので、ダンジョンでは根付かない。

 攻略済みのダンジョンは、ただの洞窟になるか、管理下に置かれた状態で魔物や鉱石を生み出すか魔素を出すかだ。ここは、核を外した事で終わり、精霊樹の枝を持ち込んだ事で魔物が生まれない環境になっている。精霊樹にとっては理想的な環境だ」

 チビは満足そうに言って、笑ったように見えた。

「核?外した?え、僕が?」

「魔石は収納していたが、核は手で運んで精霊樹の根元に置いてあるじゃないか」

 思い出した。

「水晶球かと思ってた」

 僕は曖昧に笑っておいた。



 




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