第20話 チビの秘密
チビも僕も幹彦も、動きが止まった。
ワイバーン。確かゲームでよく登場する、空飛ぶ大きなトカゲみたいなやつだよな。
見たところ、翼は片方で畳2畳くらいありそうで、尻尾は3メートル弱、体は衣装ケースくらいか。くちばしは鋭く、その内側にはずらりと尖った歯が並んでいた。爪も見るからに鋭く尖って硬そうで、マグロ釣りの針のようだと思った。トカゲというよりは、空を飛ぶ首の長いエイみたいだ。別の生物かも知れないな。
「チビ、どこもケガしてないか?怖かったな」
「ワン!」
「史緒。現実を見ろ。チビはチビじゃなかっただろ?」
「嫌だ!」
「チビは犬じゃない。犬はあんなにデカくなったりこんなに小さくなったりしない」
幹彦は嘆息した。
「チビが神獣ってやつなんだろ?」
チビは幹彦を見、僕を見、頭を足でかしかしと掻いて、大きくなった。
「子犬生活も新鮮だったが、バレたか」
子犬の時に吠える声とは全く違う。
犬なのに、喋ったのか……。まあいいか。
改めて見ると、大きいな。胴体がマイクロバス程度の大きさがあり、そこに頭と尻尾が付いていて、尻尾がぶうんぶうんと緩く振られていた。
「うわ、ふかふか!」
「この滑らかな手触り、最高だぜ。これで昼寝したい」
僕も幹彦も、チビでないチビに抱きつき、毛並みに陥落した。
「そうだろう、そうだろう」
チビは毛並みを褒められて得意そうだ。
「チビはチビだ。犬種なんてどうでもいいんだよ。
でもバレたらどこかに連れて行かれるかもしれないから、黙っておこう。よし。チビはこういう犬種だと言い張ろう」
「そうしよう」
「いや、それは相当無理があるだろ」
幹彦がそう反対意見を言う。
なので、
「よそでは大きくなるなよ、チビ」
と言うと、
「わかった、任せろ」
とチビは請け負った。
「いや、この姿でチビはどうなんだよ、史緒」
「初めは小さかったから……」
「名前あるあるだな」
「威厳は確かにないな……」
チビは苦笑した。
疲れと眠気と安心感が襲って来て、どうでもよくなってきてしまった。
これではいかんと再起動し、時計を見たら15分ほど経っていた。
エイのお化けを見た。これはどうしようか。
「エイって味噌汁に入れるんだよな」
「史緒、これ見て食うのかよ」
幹彦は呆れたようにそう言った。
エイの尻尾は牛のテールのようで、今度煮込んでみようと思う。胴体部分は、ステーキと唐揚げとフライにする事にして、そのように切り分けよう。首は網で焼いてみるか。翼は……唐揚げと煮付けかな。筍と白ネギと一緒に濃い目の味で炊いてみたら良さそうだ。味噌汁もやってみるか。
そんな事を考え、
「でも、かなり表皮が硬そうだなあ。包丁が欠けたりしないかな。何か、こう、スパッとできないもんかな」
と言いながらエイを触る。
と、エイは考えていたその形にばらされた姿に変わり、皮、爪、骨、内臓が別にまとまっていた。
「はあ!?」
僕も幹彦も、今度こそ夢ではないかとそれを凝視した。
「驚くほどの事ではあるまい?むしろ、なぜ今までわざわざ手で解体していたのだ?」
「え?」
チビと僕と幹彦は、お互いの顔を見合ってキョトンとした。
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