第22話 考えるな、感じるんだ──と彼も言っていた

「待って、チビ。魔石は収納したって、何?」

 そう言うと、チビは呆れたように嘆息した。

「消えたと騒いでいただろう。収納した事に全く気付いていないとは。普通は気付くがなあ。まあ、魔力も魔術もない世界の人間だとそんなものなのか」

 それで、空間魔術で収納したはずの魔石を出すためにも、訓練をする事になった。

 魔力を感じ取る事からと言われて、わかりやすいように魔素のない家の中に場所を移し、自分の中に注意を向ける事から始めた。そして、無意識で別空間に作った収納庫とのつながりを感じ取るようにと言われたのだが。

「んー、んんー?どういう理屈なんだ、チビ?」

「考えるな、感じろ、フミオ」

 チビが言うと、幹彦がポンと手を打った。

「そう言えば前に見たカンフー映画で言ってたな。『考えるな。感じるんだ』って」

「そう言われてもなあ。納得してから取り組みたいタイプなんだよ、僕は。

 あ、これか?」

 何かあるのに気付いて、それを辿って収納庫を見つけ出し、地下室に場所を移してその中身を全部出すイメージを持つ。

 途端に、地面の上に魔石が溢れ出した。

「うわわっ!?」

 幹彦は驚いて声を上げ、小さくなったチビは幹彦の膝の上で丸くなったまま欠伸をした。

「これが魔力か。一旦気付いたら、何で今までわからなかったんだろうってくらい、すごくよくわかるよ」

 興奮する僕をよそに、幹彦は魔石を拾い集めている。

「拾えよ、史緒。片付かねえぞ。

 これ、どうするんだよ。一度に売りに出したら不自然でしかないぞ」

 僕も拾い集めながら考えた。

「少しずつ討伐したって言って換金して行く?」

「これだけの量、どれだけかかるんだ……」

 気が遠くなってきた。

 続いて幹彦の方は、隠密の訓練らしい。どういうものか聞くと、気配を消してわかりにくくしたり、こちらで言うインビジブル技術を魔力で行うものらしい。

 これは魔素のある所でする方がやりやすいとかで、地下室で行った。

「フッ、ンッ、ホッ」

「ミキヒコ。感じろ」

 チビが寝そべりながらアドバイスをする。

「む、難しいな、感じろって言われても」

 幹彦が眉を寄せて言う。そうだろう。僕の苦労がわかっただろう。

 しかし幹彦は、少し目を離した隙に姿を消していた。

「幹彦?」

「ワッ!」

「うわっ!?」

 背後から肩を掴まれて飛び上がり、幹彦は満足そうに笑い声をあげた。

「これはいいな!いや、剣道でやっていた事の応用だな!それに魔力を使えばできたぜ!」

 そこにチビがすかさず口を挟んだ。

「ではその調子で、身体強化だな。

 フミオも、まだまだ魔術の訓練だぞ。技能が付いても、元々持っていたものが技能化したものでない限り、練習しないと使えんからな」

 なるほど。そこまで楽なわけではないという事らしい。

 僕と幹彦は、大人しくチビ先生の言葉に従って、訓練を再開させた。


 ダンジョン庁下部組織である探索者協会職員は、探索者1期生達が無事に免許証を得て帰って行くと、やれやれと一息入れていた。

「いよいよこれから忙しくなりますね」

「ああ。魔術をダンジョンの外で使えないのはありがたいな。魔術を犯罪に使われでもしたら厄介どころじゃないからな」

「自衛隊の人達は、やたらと力が強くなったり動きが早くなったりしてるんでしょう?それも魔法のうちなんでしょうか。それとポーションは外でも使えるみたいですけど、線引きは何なんでしょう」

「どうかな。まあ、ダンジョンにしてもあの精霊樹にしても、わからないことだらけで、わからないままに使ってるんだからなあ。どこか1つでも攻略できたら、何かわかるかも知れんがな」

「いつの事やら」

「まあ、期待ですね」

 まさか既に攻略済みのダンジョンがある事など、想像だにしていなかったのだった。






 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る