第17話 魔剣
おかしな声を上げてしまったが、愛想笑いでごまかし、幹彦を待った。
幹彦は自分の免許証の裏を見て、
「称号、一応あったけど……何だろうな、これ」
と眉を寄せてこちらに見せた。
称号
地球のダンジョンを初めて踏破した人類
神獣の主
精霊樹を地球に根付かせた人類
魔剣『サラディード』の持ち主
剣聖の候補者
僕はコメントに困ったが、大丈夫そうな所にコメントした。
「流石は幹彦。剣道と居合の師範だもんなあ」
「お前のも見せろ。絶対に関係あるだろう」
そしてまだ、裏面を隠していない僕の免許証の裏面を見た。
目を大きく見開き、叫び出そうとした口を掌で押さえて僕をまじまじと見た。
どうしていいかわからない。取り敢えず笑っておいた。
「史緒……これは、一体……?」
「よくわからないな。思い当たる節が無さすぎる。あの機械が壊れているんじゃないか?大体、仕組みもわかっていないものだぞ。頭から信じていいのか?」
僕と幹彦は小声で言い合い、揃って例の装置の方を見た。
順番に受講者たちが免許証を受け取りに、装置に手を突っ込んでいる。そして、
「何も無い!」
「変なのが付かなくてまあ良かった」
「ここにこれから俺の輝かしい栄光を刻みつけてやる!」
などと騒いでいた。
やはり、何も称号が無い人の方が多いらしい。むしろある方が少数派で、中年グループや猟師グループの数名が、「不屈の魂」「部下想い」などの称号が出たらしい。
僕と幹彦は目を合わせ、こそこそと言った。
「取り敢えず、黙っておこう。ばれるかも知れないけど」
「うん。騒動の素にしかなりそうにないもんな」
解散になると、大抵の人がそのまま防具や武器を買うために、ダンジョン庁の下部組織である探索者協会が運営する店に行く。
そこで僕達も、必要なものを見た。
幹彦はメイン武器はあるが、ナイフもいるだろうし、防具もいる。
ただし服や靴など、ダンジョン素材のものはいいのだろうが、高い。取り敢えずはスポーツ用品店やアウトドア用品店、作業員の味方の店で買う事にした。
僕も同じだが、薙刀はここでしか買えない。スポーツ用のものは模擬刀で、武器を取り扱うのは協会しかないからだ。
選んで、レジで会計する時に免許証を出す。これがないと、武器や防具は買えない決まりになっている。アルコールの年齢確認よりも厳しいのは想像に難くない。
会計を済ませ、家へと帰る。
そして、まじまじと免許証を見た。
「変わってないか」
「目の錯覚じゃなかったな」
期待はしていたが、たぶんダメだろうとは思っていた。
「そうなると、これが何の事だって事になって来るよな」
幹彦が腕を組んで、リビングのソファにもたれながら考え込んだ。
チビは狩りに出ているのか、姿が見えない。
「まず、魔剣サラディードっていうのは、やっぱりあれかな」
僕は言いながら、武器を保管するために備え付けた鍵付きロッカーを見た。幹彦も見ていたが、気になったのかロッカーへと近付き、暗証番号を解除して扉を開けた。
そしておかしな声をあげた。
「んん?」
「どうした?」
幹彦は手を中に差し入れながら、
「いや、おかしな現象が、な」
と言い、剣を掴んで出した。
「……あれ?」
目と記憶を疑う。確かにそれは、剣だったはず。やや幅があり、真っすぐな刃の。
しかし今幹彦が持っているのは、それよりも長くてやや反りが入る、日本刀のシルエットをしていた。
共通しているのは、鞘と柄の色が白だという事だろうか。
「ちょうど使いやすいと思う、長さと形と重さと重心だな」
幹彦が真剣な顔付きで言い、それで思い出した。
「そう言えば、使いやすい刀について言ってたのと同じくらいなのか?」
幹彦は、困惑しているようにも見えるが嬉しそうにしか見えない顔付きで、鞘から抜いた刀を眺めている。
「持ち主の好みに合わせた、とか?」
言うと、幹彦は笑って、
「そんなものがあるわけ……」
と言い、思い出したかのように真顔に戻った。
「魔剣なら、ありなのか」
この元おもちゃの剣は、本当に魔剣らしかった。
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