第16話  探索者免許証交付

 探索者免許証は、形も大きさも運転免許証とほぼ同じだ。名前と生年月日と本籍地が書かれ、証明写真が付いている所は同じだ。しかしこちらには、血液型とアレルギーの有無などの救急時に必要とされる最低限の情報が内蔵されたチップに入っているらしい。これは万が一の時、病院にある専用のリーダーで読み取れるそうだ。

 何よりも違うのは、裏だ。最初は無表記だが、これから行う精霊水を使った行為で、あれば称号が書き加えられる。そして今後変更があれば勝手に更新されるらしい。

 これは個人情報なので普段は見せるという方法も見せないという方法も取れるらしいが、どんな称号なら見せるのだろうと反対にそう思った。何か疑われた時に「正直者」とかがあればか?

 このシステムに関しては、まるでその仕組みがわかっていない。わかっていないが、海外でこれが正しく、安全だと実証されており、偽造が不可能になるという点で、全世界で採用する事が決定したらしい。

「何か凄い称号が出たらどうしよう」

「強そうなやつ、来い!」

 ワクワクしたように若い人たちが言い合い、

「称号ってどういうやつなんでしょうなあ」

「崖っぷちとかだったりして」

と、中年グループもソワソワとして冗談を言って笑い、

「腐女子とか、そういうのじゃないでしょうね、称号って」

「出たら、絶対に他人には見せられないわ」

と一部の女子が思いつめた顔をしていた。

 僕も幹彦と並んで待ちながら、それなりにワクワクしていた。

「隠居って出るかなあ」

 幹彦は

「無職とかだったら嫌だな」

と真剣な顔をしている。

「それ、僕も嫌だよ」

 それで僕と幹彦は、「無職」は出ないようにと祈った。

「では、五十音順に並んでください。名前を呼びますので1人ずつ来てください」

 いよいよだ。麻生が1番、周川が2番だ。

 最初の1枚という事で、緊張する。

「麻生史緒さん」

「はい」

 顔を何度も確認され、血圧計のようなものに手首から先を入れるように指示される。入れてみると、中には液体が入っていた。これが精霊水というものだろうか。

 精霊水というファンタジー的な名前を、いい大人が真面目な顔で会議をしながら決めたのだと思うと、何だかおかしくなる。

 しかし、精霊樹の枝を水に浸した水らしいが、その精霊樹というものは何だろう。精霊なんてものが確認された事は無いし、なぜそれが「精霊樹」であるとされたのか。それが気になる。

 それも含めての、「わからない」なのだろうとは思うが。

 考えていると、血圧計みたいなその装置のスリットに差し込まれていた免許証が出て来た。

「はい、終了です」

 言われて手を抜き、ハンカチで手を拭いて免許証を手に取ると、

「ありがとうございました」

と言って立ち上がる。

 わくわくした大人達がずらりと待っているのだ。早く退いて、称号などを見るのは後にしなければ迷惑だろう。

 振り返ると、目を輝かせた受講生たちが注目していた。

 何か訊きたそうな幹彦だったが、入れ替わりに呼ばれていそいそと装置の前に行く。だから僕は1つだけ言っておいた。

「先にハンカチを出しておいた方がいいよ」

 幹彦とほかの受講生たちは、慌ててハンカチを引っ張り出した。

 さて。

 自分の免許証を眺めた。証明写真が気に入らないのはもう仕方がない。うまく写っていたと思えた証明写真は大学1年生の時の学生証くらいで、これは嫌だと思ったのは高校2年生の時の学生証のものだった。あとはいつも、諦めだった。

 髪がはねていた。気付かなかった。まあ仕方がないな。

 写真もアレだが、もっと気になるのは裏だ。「女に騙された人」とか「婚約者に捨てられた人」とか出て来てたら流石に嫌だ。できれば「隠居」がいい。いや、なしというのは無いのか?

 考えながら、ひょいと裏返した。

「え!?」

 予想外の記述に、僕は装置が壊れているのではないかと、免許証を睨みつけた。


   称号

    地球のダンジョンを初めて踏破した人類

    神獣の主

    精霊樹を地球に根付かせた人類

    魔術の求道者

    分解と観察と構築の王


「なんじゃこりゃあ!?」

 思い当たる節が、全く無かった。


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