第7話

翌日、家を出る前に入念に衣服を調べると、今度はシャツの襟の裏に盗聴器が見つかった。

 いつ仕掛けたんだ、と思いながらもそれをぽいとゴミ箱に放り投げて家を出た。

 しかしその日の帰りには登校時に話した内容について言及されゾッとした。どうやら盗聴器は一つではないようだった。

 智也は登校中こそ元気だったが、教室に入ると、というか冷泉を見るとテンションが4段階くらい下がるようになった。

 本当に一体何をされたのだろうか。


 翌週から本格的に通常授業が始まった。と言っても最初は中学の範囲の確認や学力を測るテストばかりで退屈だった。

 早々に答案を裏返して、どうすればあいつの監視を掻い潜って恋をできるかを考え続ける。


まずはあいつの監視がないタイミング、場所を見極めることにした。


 毎朝30分かけて仕掛けられた盗聴器を探すのはすぐに習慣になった。


 2週間をかけて、俺は冷泉の監視が届かないタイミングと場所を調べた。クラスが一緒だから授業中や普通の休み時間は全て監視されている。

 だが俺は諦めずに試行錯誤を重ねて、ついにあいつの監視がないタイミングを見つけることに成功した。

 それが体育の時間と、移動教室の間際の数分の二つだった。


 つまり俺が恋をできるのは男女別の体育の時間と、移動教室の間の数分だけだ。盗聴器をはずせば登校時間も行けるだろうと思い他校の女子にそれとなく話しかけたところ、翌日からその子はその時間の電車に乗ってこなくなった。

 決して俺が気持ち悪かったわけではない。

 きっと冷泉から何かしらの圧力を受けたのだろうと思いたい。


 次に俺は監視の届かない場所を探した。冷泉にも監視できない、したくない場所はあるはずだと、そう考えたのだ。

 そして俺が見つけたのが、男子トイレだった。

 いくら冷泉といえども男子トイレを監視、盗聴することは嫌らしい。俺はこの事実を見つけたとき歓喜に震えた。


 しかし男子トイレでどうやって女子と仲良くなればいいのだろうか。

 俺にはさっぱり分からない。

 仕方なくトイレは作戦を考える場として使っている。俺は今日も智也と二人、トイレで如何にして恋をするかを考えている。



「恋がしたい!!」


 今日も勇介の慟哭はトイレに響く。数日前にトイレでの会話が聞かれていないという事実を見つけ、今日もトイレで叫んで自身を鼓舞していた。


「もう無理だろう」


 ため息交じりに智也が言う。


「いや、無理じゃない。まだあるはずなんだ。方法が。諦めなければ必ず見つかるはずだ!」


「その熱意を別のものに向ければいいのに……」


「とりあえず確認だ」


 勇介は学校案内の時に貰った学校の大まかな地図を広げる。いたるところに×がつけられていて、各トイレだけが赤く塗りつぶされている。


「見事にトイレだけだな」


「うむ……」


 屋上、体育倉庫、旧校舎、校長室、七不思議になっている開かずの間、学校の全ての場所で検証したがトイレ以外は全てダメだった。


「トイレでしか恋愛できないなんて不憫だな」


 智也が他人事のように笑う。まあ実際他人事なのだけど。


「場所とかタイミングより、やっぱり冷泉さんをどうにかするしかないんじゃないか?」


「どうにかって?」


「それは分からないけど、監視やめてもらうとか?」


「あいつが監視をやめる方法か……」


 勇介は顎に手を当て考えた。無駄に出来のいい勇介の脳がトイレでフル回転する。


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