28.「おめでとう!」


「おめでとう!」


「おめでとうございます!」


「おめでと~!!」


「いやほんとうにめでたい!」



シュテファニ・アイブリンガーと、ルトガー・バルシュミーデは今日、王都の中心街にある教会で結婚式を挙げた。

二人が教会から出てくると、集まっている貴族や民たち皆が祝いの言葉を口にした。


数時間前、王宮に報告が上がったボーブムの施設の件は、二人の耳にも届いた。

お祝いムードの中にあって大変遺憾だったが、起こってしまったものは仕方ないと対策を立てることになった。



「近衛を?」


「はい。使者殿は、国王が出席する式で何かあったらまずいからって近衛を寄越してくれたって言ってましたよ。」


「まあ。」



ザビが受け取った報告を伝えると、シュテファニもルドガーも驚いた。王を守るためでもあるだろうが、式の警備に近衛を使えとは。



「ではバルシュミーデの兵も借りよう。オーラフ、近衛の配置も含めて頼まれてくれるか。」


「へいへい」



すでに式場入りして家族も揃い、準備をしていたところに知らせが来たのでルトガーはオーラフに兵の指揮を任せた。



「配置についている我が家の皆さんにも、気を配るように伝えてちょうだい。」


「了解。」


「よろしくね、ザビ。」



シュテファニは、報告を受け取ったザビにそのまま外にも伝えるよう頼んだ。



「何事もなければいいのですが……。」


「あなたは私が守る。」


「ありがとうございます。でも――」



シュテファニは、式の参列者や、お祝いに集まってくれる民衆に何もなければいいけど……と心配していた。



そして、準備が出来て式が始まる直前に、教会の控え室にアイブリンガー家の兵が駆け込んできた。



「捕らえました! フーゴ・バーデンを近衛騎士団が捕らえました!!」



悩みの種はあっさり捕まった。




――そして冒頭に戻る。


皆を悩ませていたフーゴの強制施設脱走の知らせは呆気なく幕を閉じた。渦中の人はもう捕らえられたので、憂いなく式を終えたあと民衆の前に姿を現すシュテファニとルトガー。


たくさんの祝いの言葉が掛けられた。



「これからもよろしくお願いしますね。」


「ああ。こちらこそ。」



式のあと行われた王宮での披露パーティーでは、豪快に酒をあおる国王が主役二人に浴びせるほどのませるから、王妃に叱られていた。

浴びるほどのんだはずなのにケロッとしているシュテファニとルトガーを見て、周りはドン引きだったが。


この日、王都ではたくさんの食事や酒が無料で振る舞われ、皆が笑顔で、たくさんの笑い声に包まれた。









皆が出払っていて、ほかに誰もいないじめじめした警備隊詰所の地下牢で、その男は叫んでいた。



「おい! ふざけるな!! 俺は強くなったんだ!! こんな、簡単に……っ!! 捕まるわけないだろう!! 出せ! ここから、出せ!!!」



そう、フーゴはあれだけ何かやらかしそうな雰囲気でいたのに、今日近衛にあっさり捕まった。



それにはこんなカラクリがある。



平民と貴族の素質は大きく異なる。だから力をつけた侯爵令息のフーゴは、ボーブムの施設ではその辺のゴロツキには負けなかったのだ。

しかし、それはあくまで対平民であって、しかも一朝一夕で手に入ったような筋肉だけだ。如何に怨みをつのらせそれを糧にしようとも、日々鍛錬を積んでいる貴族だらけの近衛に適うわけがないのだ。

つまり、フーゴは所詮猿山の大将でしかなかったというわけだ。恐らくルトガーひとりでも取り押さえられただろう。



一生に一度の晴れの舞台を台無しにしようとしたフーゴを、ルトガーは許しはしないだろう。ここから出せと喚き散らすが、出た先には後悔しかないのではないだろうか。



「なんで……! なんでだ!! 俺は! あいつの、泣き喚いたツラを見るまで諦めないぞ!!!」



そんな宣言も、喜びに沸き上がる王都では、誰の耳にも届かないのであった。





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