27.「父上、悪い顔です。」



王宮では慌ただしく人が行き交っていた。地方のとある施設から、労働者が多数殺害され、さらに脱走者が出たと知らせがあったのだ。

報告を受けた宰相は、足早に王の元へとやってきた。



「ボーブムの施設だと?」


「そこは確か……。」


「あいつを送らせたところだな。」


「ええ。」



王は町の名前を聞いて、先日どこぞの侯爵令息を送って行ったところだと思い浮かんだ。自分が、見張りについていくよう騎馬隊に指示したのだから、覚えていないはずがない。相槌を打ったのは、同じく聞いていた王太子である。



「死んだのか。」


「いえ、死んだのは、もともとそこで労働者を束ねていた男とその近しい者です。死体は、フーゴ・バーデンが使用していた部屋に山積みにされていたと……。」


「あいつはそんな腕の立つヤツだったか?」


「いや、あいつは怠け者でひ弱だったから、恐らく窮地に立たされたことで力を身に付けたのでしょう。貴族の素質は、そもそも平民のそれとは大きく異なるものですから。」


「そうか……。」



貴族と平民では、血に通う素質が異なる。そして高位になればなるほどそれは顕著に現れる。

フーゴは侯爵家の令息だ。貴族では公爵家に次ぐ位を持っている侯爵家ならば、やれば出来るの出来るレベルが違うのだ。

やらなかったから出来ないだけだったフーゴは、この度の強制労働と精神的&肉体的苦痛を受けたことでものすごい成長を遂げたのだと王太子は推測した。



「それで、脱走者が出たのはいつだ。」


「七日前です。」


「……まずいかもしれんな。」


「そうですね、しかも今日は結婚式だ。我々も参列予定の。」


「ああ……何事もなければ、いいがな。」



折しも今日は、シュテファニ・アイブリンガー侯爵とルトガー・バルシュミーデ公爵令息の結婚式だ。

七日前にボーブムから消えたのなら、すでに王都に潜伏している可能性はある。


フーゴがシュテファニに復讐すると決まったわけではないし、バーデン家に帰りたいだけかもしれない。もしくはどこか、誰の手も及ばない地でやり直すつもりかもしれない。

王は、これ以上シュテファニ・アイブリンガー侯爵が嫌な目に遭わなければいい、と密かにため息をついた。



「式場の警備を増やせ。近衛を向かわせろ。」


「近衛、ですか?」


「ああそうだ。どうせ俺も式に出る。先に行って一番外側を守れと伝えろ。」


「かしこまりました。」



言うとすぐに、伝令を受けた宰相は兵の手配を始めた。

本来近衛は王の周りを守る部隊だったが、その分腕も立つし何より無情で無慈悲だ。王自身もその場に行くのだから、近衛に守らせるのは問題ないと判断し指示を出した。



「さて、小バエは網にかかるかな?」


「父上、悪い顔です。」


「……来ないに越したことはないがな。」


「そう、ですね。」



このめでたい日、無事に結婚式が終わることを願う親子だった。




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