第33話 考え過ぎかな
「あぁ、終わったよ。鬼塚の腹の中につくもがみがいた、そいつが原因だった」
「だから俺達は大丈夫だって。心配いらねぇって」
キャンパスから車で10分程度運ばれたあたし達は、駅前の総合病院で治療を受けた。
外山さんの車(おそらく)に乗せられたときには気絶していた勅使河原も、道中で意識を取り戻した。体に異常がないか、様々な検査をする必要があるみたいで、念の為今日は入院するようだ。
あたしと甲斐さんに関しては、この規模の病院に来たことは大袈裟だった、というのが正直なところだ。あたしはともかく、甲斐さんは足の腱辺りを斬られたはずだったが、気付けば痛みは引いていたようだ。ああ言いながら、なんだかんだ大きな傷は、菜花さんが戻してくれていたと考えるのが自然だろう。
精算も済ませたあたし達だったが、ここまで連れてきてくれた外山さんの姿がまだ見えない。既に病院にはいないのかもしれないが、連絡もつかない。このまま勝手に帰っていいのか、動くに動けずにいる。
今は隣で甲斐さんが結月さんと電話中だ。微かに聞こえる結月さんの声は、ちょっと震えている気がする。
「そういうわけで、こっちは気にしなくていいから。……はい、じゃあねー」
正直言うと代わって欲しかったが、わざわざ掛け直すほどではないので、黙っていた。
お互い一息ついたことで、あたしは今日までの一連の流れを思い返していた。外山さんに勅使河原、臼井や鬼塚、その他寮生の4人……ある者は笑い、ある者は傷つき、操られていた。
異次元の力を目の当たりにしたことで、通常考えられない選択肢が頭に浮かぶ。
「あのー甲斐さん? 出来れば使わせたくないでしょけど、菜花さんのつくもがみで、彼らを生き返らせるのは……」
甲斐さんは目を瞑って、ゆっくり首を横に振る。
「……出来ないんだよ、そもそも。あの竹箒の仕様は、生物の時間は戻しづらいんだ。菜花さんが自身の時を戻す際の負荷が、何より無理してる証拠だな」
「対して、つくもがみも含めた物は、今日見たように、元素レベルまで戻せる。つまり生物とそれ以外で扱いが違う。死者という物から、生者に戻せないのはそれが原因だって、確か言ってたと思う」
その垣根を超えられない、何か明確な違いが生と死の間に、あたしには到底想像が及ばない理があるのかもしれない。
その違いがあるのだとしたら、鬼塚も下呂達も、死ぬことで物となり、その後つくもがみとなったのだろう。鬼塚自身がどのタイミングで死に、つくもがみに操られていたのかは、もう確かめる術はない。
「……つくもがみになったであろう5人は、誰が彼らに強い想いを発したんですか?」
例外もあるのかもしれない。マフ太だって、いつつくもがみになったのか今も分からない。それでも、誰も死んだことに気付いていなかった彼らが、普段通り生活していた彼らが、皆残らずつくもがみになるなんて、あり得るのか。
「……分からないことだらけなんだな、俺達」
疲れ切っているのか、甲斐さんは考えることが面倒になっているみたいだ。まだ言いたいことがあったが、ここは飲み込んでおこう。
「すいません……。お互い、もう頭使いたくないですよね。アハハ……」
口ではそう言ったが、どうしたって考えるのは止められない。
つくもがみは、自然の摂理なのだろうか。もし、そこに意志が関わっているのだとしたら、どんな状況だって説明はつく。ある種反則的な考えかもしれないけど……。
それが人間なのか、バカ傘みたいなつくもがみなのか、はたまた全く違うそれ以外かもしれない。ただ、何であろうと法則を弄る者がいるのなら、このキャンパスの仕組みさえ、偶々では片付けられない意図があるかもしれない。
「おーい、千尋? 外山さんから電話来たけど……って聞いてるか? もう帰っていいってよ?」
「……あ、す、すいません……!」
ある意味疲れているのかもしれない。隣の電話が聞こえないほど考え事なんて、普段じゃ考えられない。このままドツボに嵌まりそうだったので、良い辞め時ができて良かった。
「タクシー使うか。金は後で請求しようぜ」
どうせなので別々にタクシーに乗った。
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