第2話 何なのこいつ、めっちゃキモイ!

 時は4月に遡る……。




 私、相澤千尋はこの4月から、晴れて鬱木大学の学生になりました。今日は入学式だったので、キャンパスから少し離れた文化会館ヘバスに乗って来ました。着慣れないスーツを身に纏い、キョロキョロと不安そうな人達がバスにはたくさんいました。私もそう見えるんだろうな……。

 

 そんなこんなで始まった入学式は、偉そうな人の長い話を聞き流しながら、これから始まる学生生活に想像を膨らませてました。友達できるかなぁとか、サークルどこ入ろうかなぁとか、そんなことを考えてたら時間はあっという間に過ぎました。

 

 さて、そのあとはまたバスに乗って、今度は大学へ向かいます。学部ごとに諸々の説明? があるみたいなので。今日のために10台はバスが用意されてたみたいで、特に待つことはありませんでした。なんとか座れたので、今はこうして日記をつけています。あと15分位は乗ってるかな、また想像膨らませちゃおうかなぁ……。

 

 スーツ姿のあたし見たら、なんて言うだろうなぁ。

 

 

 

 バスはそのまま大学の駐車場に着いた。なにやら外が騒がしい。あーあれは……在学生なのか。バスから降りる私達ヘ向かって、彼らはぞろぞろと向かってきた。めっちゃいるなぁ。

 

「ダンスサークル、パラリラでーす! 新歓来てくださいね!」

 

 すごいおしゃれな女の人が、ビラをくれた。この集団はサークルの勧誘なのね。貰ったそのビラには、これから約1ヶ月間行われる、新入生歓迎会の日程が書かれている。噂ではご飯を奢ってくれるサークルもあるとか。

 

「アメフト部でーす! お! 君体格いいね!」

 

 あちこちで新入生に声掛けとビラ配りが行われている。あたしはダンスの才能を見出されたのかな? と淡い期待をしたが、どうやら手当たりしだいに配ってるみたいだ。お、また声かけられた、今度はなんだろう。

 

 

 

 そんなこんなだいたい10枚くらい勧誘のビラをもらった。天文……アカペラ……ハンドメイドに……これは野球部? マネージャーってこと?

 

「いやー、今日は人間がいつにもまして多いな!自販機どこだが分かんなくなっちまった!」

 

 うゎ! びっくりした……。急に独り言だし声でかいし……変な人かな。

 ……声がした方に振り向いた私は、しばらく動けなかった。あー何だこの人……格好もやばいじゃん。なんのサークルの勧誘? 頭から傘被って、足首と素足だけ出てる。傘にでかい目玉付けてるし、足首とかめっちゃ毛生えてるし。そこってそんな生えるもん?

 

「邪魔だぁ! 人間!」

 

 つーかなんでみんなこんなやばい人スルーできるの? 大学ってありふれてるの? こんな人が。

 

「あ? 何だお前、ジロジロ見てきて。あいつらの知り合いか?」

 

 げ! 話しかけてきた! 見すぎたかなぁ。

 

「あ、どうも。私見ての通り新入生で……失礼しましたー」

 

 さっさと立ち去ろう。関わんないほうがいいし。

 

「おーいバカ傘、いつまでかかんだよ。ジュース買ってくるだけだろ?」

 

 あーなんかへんな人の友達っぽい人来たみたいだね。てかバカ傘って呼ばれてんだ。安直すぎない?

 とりあえず振り返るのはやめとこ。

 

「おい優太、あのちんちくりん女、俺のこと見えてるっぽいぞ。知り合いか?」

 

 ちんちくりん!? 見ず知らずの人間によく言えたな! あー一言言ってやろうかしら! そう思って振り返ると、友達のほうが私を目をまん丸くして見ていた。何よ、その顔は。あたしの方が変なやつみたいじゃない。

 

「君……こいつが見えるのか……」

「え、見えるって……何がですか?」

 

 友達Aはジリジリ近づいてくる。あれ? この人もあれな感じ? やっぱさっさと立ち去ろう。説明会ってどこでやるんだっけ?

 

「ちょ、ちょっとまってくれ! 君の! ことが知りたい! から、ま、待ってくれよ!」

 

 あたしはもう既にダッシュしていた。どこへ向かうとかいい、とりあえずあの人から逃げよう! うわ! めっちゃ追いかけてくる! 傘の奴も来てるし!

 

「まじ! な、何な、なんなのー!」

 

 あたしは叫んだ。周りの人はちょっと驚いてる。あたしを見て驚くな! もっとやばいのがそこにいるだろ!

 

 

 

 5分くらいは走ったと思う。奴らはまだ追いかけてくる。

 

「ちょっと、何なんですか! 追いかけてこないでください!」

 

「ご、ごめん! お、追いかけないから、せめて、学部と名前を! 教え、て!」

 

 ナンパってこれのこと言うの? なんか想像と違うんだけど……。

 

「お、教えません!」

 

 あたしは断固拒否した。そして走り続けたんだけど、ついにヒールが脱げた。バランスを崩し、あたしは倒れ込んだ。あぁ、ヒールでここまで走ったあたしを褒めて……。

 

「だ、大丈夫? マジでごめん、俺もちょっと動転してた……」

 

 倒れたあたしに、友達Aはそう言って謝ってきた。

 

「優太、こいつ足速いな!」

 

 謎コスプレ野郎は少しは謝れ! と思ったけど……もう言い返す気力はない。

 

「あ、あたしも……すいません。逃げ出しちゃって……話ってなんですか?」

 

 とりあえず少しだけ聞いてあげようか。

 

「あーその……単刀直入に言うと」

「こいつ、人間じゃないのよ」

「傘のつくもがみ。って言ってもわからんだろうけど……とりあえず人間じゃないんすわ」

 

 ……なんだろう、やっぱり変な人だった……。とりあえず刺激しないでおこうかな……。

 

「あのーすいませんそこの人」

 

 友達Aは急に横を通った学生に話しかけた。

 

「今、僕ら何人ですか?」

 

 うわー……一緒にされるぅ……やばい人の仲間と思われるぅー。

 

「はぁ……私を入れて……三人ですけど……」

 

 通行人は困惑しながらそういった。そりゃ困るよね訳わかんないもんね。……え?

 

「どうよ……普通は見えないんだよ。つくもがみは」

「い、いやいや! だって、え! 傘の中に誰かいるんでしょ!」

 

 私は興奮気味に傘の先をつかんでひっぺはがそうとした。でも……それは叶わなかった。

 

「え……触れない……」

 

 伸ばした手は、空を切った。確かにそこにあるのに……

 

「触ることまではできないのか……でも君は、他の人には見えないものが見えるんだ。その様子だと、今までは見えてなかったのか……」

 

 あぁ、ゆめなんだこれは……きっと……あはは……

 

「俺は、甲斐優太。農学部の2年だ。もしなんかあったら、ここに来てくれ。あと……よかったら俺たちと一緒に……」

 

 甲斐さんとやらがそう言ってビラを渡してきた。その後もなにか言ってるが、頭に残らなかった。

 とりあえず受け取って、脱げたヒールを履き直し、おぼつかない足でその場を後にした。

 

「私は、相澤千尋です……。さようなら……」

 

 大学って、想像と違うなぁ……あはは……。

 

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