第19話 思い出(1)
マティアスが靴がなくて恥ずかしがった日から、三日しか経っていない。オディロンが突然、ジュスタインの離れの家に来た。
いつもは一月待たなくてはいけないため、マティアスは喜びながらもとても驚いたのを覚えている。
夕方というほど遅くはない、午後の時間だった。
『こっそり来たんだ。これを渡したくて』
オディロンが入ってきたのは裏庭で、以前二人で庭に出た時に、ここからならすぐ通りに出られると話していた門だ。
『まあ、まあ、オディロン様いけませんよ。本当におひとりで?』
乳母が泣きそうなほど狼狽していたが、マティアスとオディロンは無邪気に庭先の椅子に座った。
『これあげるよ。大きさ、大丈夫かな』
オディロンが抱えていた包みの中には、子供用の靴が一足入っていた。
『ボクが履いていいの?』
『俺が前に履いてたけど、もう入らないから、あげるよ』
あの日、ソファの下に屈みこんだオディロンは、自分の手でマティアスの足の大きさを測っていたのだ。それを頼りに自宅を探し、かつて使っていた靴を見つけた。
マティアスは今日も布製の部屋履きを履いていた。それを脱いで、オディロンが持ってきてくれた靴を履く。
赤い靴だった。赤褐色の革に、明るい朱色の絹のリボン。足首を囲うように白いフリルが付いていた。
革もリボンもフリルも、少しばかり傷んでいただろう。きっと、見る人が見れば色褪せたお古に違いない。サイズもやや大きかった。
『ありがとう!』
大きな声が出た。
嬉しくて、お腹のまんなかがキュウと熱くなって、笑いがこみ上げてきた。表に出ようとする強い力を発散するように、マティアスは靴を履いた両足を椅子の淵でプラプラと動かした。
『ありがとう。これでまた、一緒に剣の稽古できるね』
『そうだな。また次に来たら一緒にやろう』
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