第16話 関連(1)


 今思えば、それは月に一度の逢瀬だった。


 乳母と従者、時に教師も同席していたが、そんなことはどうでもいい。七歳と少しのマティアスにとって、オディロンが来る日は本当に特別な日だった。

 しかし、あの日はオディロンと上手く目が合わせられなかった。ソファに並んで座って、そわそわと膝を擦り合わせていた。


『どうかした?』


 その態度はすぐにオディロンにバレた。


『くつが、小さくて、痛くて……』


 マティアスは寝間着になる時に履くような、乳母が縫ってくれた布の部屋履きを履いていた。


 どうして新しい靴が用意されなかったのか。

 職人が来られないとか、材料の仕入れに時間がかかっているとか、周りの大人たちはそれらしい理由を聞かせてくれた。

 つまり父が、それらを手配してくれなかったのだ。


 その意味が分からない当時のマティアスは、ただただ困っていた。庭に出られないので剣の稽古もできなかった。もとよりその時、剣の教師が辞めてしまって稽古をつけてもらえなかったのだが。

 教師がいないのも嫌だったし、靴がないのも嫌だった。


『職人が来れないんだって。だから、今は仕方なくて……もう少し、時間がかかるって』


 まだ子供だった自分たちは、互いに靴を脱いだところも見ていた。マティアスが母に習った舞を披露するときなど、ショースも履かず、裸足だったこともある。

 それでも強い抵抗を感じたのは、幼心に足の露出を恥じる気持ちが芽生え始めていたのか、新しい靴も用意できない異常な環境を知られたくなかったのか。これは今もって自分の内の何がそうさせたのか分からないが。

 七歳のマティアスは必死に言い訳をした。


 オディロンがソファを下りて絨毯に膝をついたので、マティアスは驚いて足を上げようとした。


『ちょっと見せて』

『な、なんで?』

『いいから』


 足首を掴まれて、観念したマティアスは両足を揃えて下ろす。オディロンは床の近くまで顔を近づけて、マティアスの足に手をかざしたり、何やら熱心に観察した。

 別段珍しくもないただの足だ。大きさが違うだけで、オディロンとそう代わり映えもしない。

 当時のマティアスはあまり外出したこともなく、多くの人間を知っているわけではなかったが、それまでに会った人は皆、大人も子供も同じような足を持っていた。


『うん』


 何に対しての納得なのか、オディロンは一つ大きく頷くとソファの座面に戻ってきた。


『今日は外には行けないな。カードはある? ゲームして遊ぼう』


 オディロンはそう言って、何事もなかったかのように笑った。

















































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