第11話
話をしながら歩いていると時間の流れは早いもので、直ぐに宿が見えてくる。
ぺペンギンはリュックからそっと顔を覗かせて、サエに囁くように言う。
「サエちゃん」
「分かっていますとも! マルちゃん」
マルちゃん? 先ほどまでマルセリーノ統括教授と呼んでいたのに? マルちゃん?
コミネの頭に、また?マークが踊り出す。
サエは先頭に立って宿へと向かい出すが、宿には入らずに右隣にある酒屋へ入って行く。
そして、誰も居ない暗い店内の奥に少し大きな声で主人を呼ぶ。
「おじさーん、いつものやつ、くださーい」
すると、奥で何やら物音がする。
直ぐには店に出てこないが、返事だけが聞こえる。
暫くしてかなり年配の店主が出てきて、
「おやー、サエさん、お久しぶりです。シングルモルトですね」
「はい、お願いします」
「ちょうど良いものを仕入れておきましたよ。これこれ、マッカラン25年ものです」
その傍でコミネは目が飛び出しそうになる。
それなりの年齢の女性のはずであるが、見た目は未成年のような童顔の少女が、シングルモルト? マッカラン? 25年もの? 相変わらずコミネの頭の上で?が一つ乱舞しだす。
「うわー、美味しそうですね、早速今夜頂きますわ。二本ください!」
この言葉にコミネは?マークの団体さん、ようこそいらっしゃいませ! になる。
一体全体この娘はどれだけ飲むのだろうか?
あのぺペンギンの大きさからしたら二本どころか一本でも一ヶ月以上は待つだろう?
この娘は確か二泊三日の予定だと言っていたが?
それなのに二本?
一晩で飲みきらないにしても間違いなくどんちゃん騒ぎではないか?
コミネの頭の中でチャンチキおけさが流れだす。
「知らぬ同士が〜 お皿叩いてチャンチキお〜け〜さ〜 おけさ切な〜や 遣〜る〜瀬〜無〜や〜。三波春夫でございます」
アホである。
注:チャンチキおけさ;チャンチキはお祭りなどで使われる打楽器のような ものです。
おけさは、おけさ節ですね、やっぱりお祭りなどで歌われるものだと思っております。
ラジオで聞いたのか、テレビで見たのか、何かのコラムの欄で知ったのか、私が知った時は既に三波春夫さんも亡くなられていたので追悼番組だったかもしれませんし、または故人を偲んでのお話であったのかもしれません。
舞台は、炭鉱。
地方から炭鉱夫としてやって来た出稼人夫の方々が、故郷に思いを馳せ、故郷の歌を歌い出すと、夜の安い屋台でそれぞれが自分達の故郷への想いを共有し、お箸を片手にお皿を叩いて音頭を取り、辛かった一日の夜も更けていく、知らぬ者同士がひとつになった時間。
そんな物語を歌にしたものだと見聞しております。
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