第12話



 ぺペンギンは、昨日と同じようにコミネの部屋にいる。

一人と一匹は黙って天井を見ている。

結局、コミネは今日もお泊まりすることになった。


「一人旅ですか? 時間もたっぷりあるんですか? それでしたらもう一泊しませんか?」


 サエにそう言われると泊まった方が良いような気がした。

それだけの理由でコミネはもう一泊することになった。


「なぁ、お前、もう一泊するねんやろ? ほな、湯でも浸かって来たらどうや?」


「そうですね」


「ワイはここで留守番してるわ」


「お湯には浸からないのですか」


「湯浴みしてるペンギンて見たことある? 嘘やで。ワイ、シェルターの中に浴槽あるねん。でもな、シェルターはメグちゃんの部屋やろ、ここ宿屋さんやさかいにや、いろんな人来るやん? せやしメグちゃんの部屋は鍵かかってるから、ワイ、メグちゃんが学校から帰ってくるまで部屋に入られへんねん」


「なるほど、では、メグちゃんが小学校から帰ってくるまでは、今までどうしていたんですか」


「うーん、せやねー、川で泳いだり、川で泳いだり、川で泳いだり、かなー。ほら、ワイ、ぺペンギンやろ冬でも水の中やしな」


 少女が帰ってくるまで部屋に入れず、一匹で河原を彷徨うろついているぺペンギンを想像すると何処か切ないような思いになる。

そこへ、サエが浴衣姿でウィスキーのボトルを片手に一本づつ合計二本持ってコミネの部屋へやって来る。


「入ってもよろしいですか」


「ええでぇ」


「失礼しまーす」


 コミネは浴衣姿で上気しているサエを見て一瞬戸惑う。

さらに片手に一本づつ、両手で二本のウィスキーボトルを持って立っている少女のような大人の女性に更に戸惑う。


「あ、せやせや、忘れてたわ、ここ混浴やってん、お前、さっきのタイミングで浴槽入ってたら、ばったりサエちゃんと会うところやったな」


コミネの鼻の穴から血が吹き出す。


「お前、どうしたん?」

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