閑話・ウットテリム城での戦い・セラ視点

 ああ、本当に気持ち悪い。

 魔力パスに気付いたまでは良かったけど、一度気づいたものだから、良く見えてしまう。この街は本当に気持ち悪い。

 最初に入った時も変な魔力の流れがたくさんあって凄く気色が悪かったが、い天はそれ以上に気持ちが悪い。


 ウットテリム城に着くが、門番たちは当然のように洗脳されているようだ。

 今すぐ殺してしまいたいくらいなんだけど、あくまでなるべく穏便に……なのでとりあえずは我慢しないといけない。

 それにしても、ジョンは良いとしても、付いて来た山賊と騎士もなかなかに邪魔だ。出来れば帰ってほしかったんだけど、付いてきたからにはせめて邪魔だけはならないと良いんだけど。


 城の中にはあっさりと通されて、一人の執事が案内してくれる。

 二階の応接間まで歩きながら一通り見てみたけど、これは駄目だ。この城の中にいる人全員焼き払った方が早いと思う。

 案内してくれている執事も一件大丈夫そうに見えるけど、何かしらの魔術は受けている。

 左目で見たら変な魔力の残滓が見えたので右目で確認したら案の定だった。洗脳ほど強くはないけど少し思考がいじられている気がする。

 ジョンたちこれで、領主も駄目だったらジョンたちを退避させて城を窯のようにして全部焼いちゃおうかな……ジョンに止められるだろうしやらないけど。

 応接間の前まで付いたわけだけど、やっぱり焼き払いたいな。うん。


「こちらで公爵がお待ちです」

「ああ、ありがとう」


 ジョン軽く礼を述べると、執事は扉を開けた……あーあ、やっぱりね。直接右目で見たら分かるよ。

 あの男は魔族だ。

 魔族はソファから立ち上がってこっちに向かって歩いて来た。友好的な可能性はない。一応限りなく可能性が低いとはいえ魔族の中にも有効的な物がいるかもしれないが、友好的なら街や城にこんなことはしないはずだし、この魔族は違うだろう。

 もしかしたら、上手く誤魔化せているつもりなのかもしれないが、それが虚偽であり真実でない以上、この右目を騙すことはできない。


 他の戦力は……洗脳された騎士が三人と秘書に扮した魔族が一人。多分、大丈夫かな。この魔族たちはそれほど強くなさそうだし。騎士たちは論外。やっぱり最初に戦ったあいつが例外だっただけかもしれない。見ただけで全然強さが違うのが分かるくらいには違うし。


「やあ、山賊を倒してくれたそうだね、彼らには私達も手を焼いていて困っていたところなんだよ」


 白々しい嘘塗れの言葉だ。どのタイミングで切り捨てようかな。

 そう考えているとジョンが魔族の握手に応じようとしていた。

 ああ……もういいや、殺しちゃおう。


「なっ……」


 一応、ボクの剣に反応はできたみたいだけど、やっぱりその程度か。不意打ちだったのもあるけど、やっぱり弱い。

 初撃で腕を落とし、胴も大分切り裂けた。あれはどっちにせよ長くは持たないだろうし、倒したようなものだろう。


「な、何をしている!」

「そいつを捕まえろ!」


 騎士たちが動き出したけど、正直言って全く脅威にはなり得ない。


「おまえ、魔族か……」


 深い傷を負ったのでジョンも気づいたみたいだ。ジョンを完全に騙せるくらいには凄い者だったのかもしれない。ボクに対しては意味がない技術なのである意味では相性が悪かったのかもしれない。


 ほぼ死んでるようなものだけど、何かされても面倒だし一応とどめを刺しておこう。

 もう一度剣を振って、左目で確認した魔族の核を二つに切った。

 ついでに騎士たちの首も落としておいた。あんな状態じゃ、正直生きている意味なんてないだろうし、そもそも解除されたところで死なない保証はない。ならさくっと殺したほうがいい。そう思ったから殺しておいた。


「まずは一人……多分他にもいるね……騎士の洗脳が解けてなかったし」


 そう言って、秘書の方を見る。これでいいかな? 次は急に切りかかったようには見えないかな。


「洗脳が解けていないって言っても、術者が死んでも解けないタイプもあるかもでしょ」

「そうかもだけど、多分同じものだと思うよ」

「そうなの?」


 首を傾げて見せるけど……伝えたいことはそっちじゃなくて、この部屋に魔族がもう一人いることなんだけど。もう直接言おう。うん、そっちの方が早いし誤解もないか。


「多分だけど、そうだと思う……あ、もう一人見つけた」


 秘書のふりをしていた魔族に切りかかったけど、こっちには伝わっていたみたいで、心の準備が出来ていたのかもしれない。回避をされた。雑に振るった件だったけど、それを回避するぐらいには戦えるのかもしれない。


「そうか……一番念入りに隠匿をすると言っていたが……術者が消えたから、先ほどのズルバスと同じくらいまで精度が落ちたか……」

「へぇ……結構やるね、それなりには強いのかな」


 絶対そんなことはないと思うけど、一応こう言っておけばちょっとは長く遊べるかもしれない。

 だって、弱いって言ったら手加減してモヤモヤを解消するのが難しくなりそうだし。


「ジョン、二人を連れて別のところ行くとかできる? というか、他にも魔族がいる気がするから、そっちを探してくれると助かるかも」


 ジョンにここにいられたら、あれだし、もう一人いる魔族の方に行って貰おう。多分ジョン一人でも勝てると思うし、任せて大丈夫だと思う。あと、単純に山賊と騎士は邪魔だし、ここ最近はジョン以外がいたせいでずっともやもやが溜まっていたわけだから、二人がいると誤って切ってしまうかもしれない。


「別のところに行くのはいいけど、魔族の方に何か根拠は?」


 根拠はボクの右目なんだけど……目のことはジョンには話していないし……どうしようかな……


「……ボクの勘じゃ、ダメ?」


 とりあえず、そんなことを言ってみたけど……どうだろう?


「分かった、そっちの方は任された」


 よ、よかった……。

 ジョンは結構ボクのことを信頼してくれている。それに賭けたのだけど、なんとか賭けには勝てたようだ。一応、もう一人魔族がいるのは確実だから、ボクの勘への信頼度を落とすようなことにはならないと思う。


「いいのか、ひとりで」

「当たり前でしょ、キミじゃボクの本気すら引き出せないよ」

「なに?」


 ボクの言葉に眉を顰めた魔族は何処からともなく、刃の部分が人の上半身ほどもある斧を取り出して手に握っていた。

 ああ、面白い魔法だ。確かにあれ程の大きさの物は持ち運ぶのは大変だろうし、バッグにしまったとしても取り出すのに時間がかかってしまう。だから、どこか別の場所に置いて、必要な時に呼び出しているようだ。

 詳しい仕組みまでは分からないけど、多分召喚系。発動方式は魔族式の要素を含んだ現代式。便利そうだし、知りたいけど、教えてはくれないだろうし、少し残念。


「行くぞ」

「うん、いつでもいいよ」


 一応、ここにいた魔族の中では一番強そうではあるけど……どのくらいまで力を遣おうかな。服に気をつければある程度紋章とか刻印とか隠せるから浮かびあがらない場所のと、ジョンが知っているような部分はいいかな。聖剣は……強すぎるし、剣が勿体ないからやめよう。

 魔力炉は平常運転で問題なし。遊んでいて傷を負うと後でジョンに怒られそうなので、補助の11番と12番はそれなりの深度で起動しておこう。とりあえずはこんな感じで行こう。


 振り下ろされた斧を剣で受け止める……あっ、ちょっと刃が欠けた……まぁ、いいけど。


「俺の一撃を正面から受け止めるとは……凄いな。全力ではないとはいえ、何事もなく受けられるあたり、油断は出来ないか」

「そうだね」


 魔族がなにか言っていなので適当に相槌を打っておく。良く聞いていなかったのだが、何を言っていたんだろうか。

 洗脳されている騎士たちが何人かやってきたけど、相手をするのが面倒だったので炎魔法で焼き払っておいた。


「全く躊躇がないな」

「なんの話?」


 さっきの続きだろうか。なんのことを言っているのかは分からないが、魔族からしたらボクは躊躇が無いように見えるらしい。


「ねぇ、そんなことより、外で戦わない? 室内は狭くて全力で戦うにはいろいろと邪魔でしょ?」


 ボクもそうだけど、相手も斧が随分と大きいので室内戦はしにくいだろうし、悪くない提案だと思ったんだけど、相手はこちらを睨んできた。


「……なに?」

「いや、だから外で戦わない?」


 なんだか分からないけど、きっかけを作ってあげれば魔族も外に出てくれるだろう。そうおもったので、炸裂系の魔法で大穴を開けてあげた。


「貴様……舐めているのか?」

「別にそんなことはないよ、ただ、お互い全力で戦った方が良いんじゃないかなって思っただけ」

「それを舐めていると……」

「まぁ、先に外に出ているね」


 なんだか長くなりそうだったので、外に向かった。ボクが外に出れば相手も付いて来るだろう。とりあえずは、上まで登ろうかな。城の上で戦うのは少しだけ楽しそうだし。


 壁をはしり、城の上で少し待っていると、予想通り斧を手にした魔族もその場に現れた。


「どう? ここなら戦いやすいでしょ」


 隠匿が結構厳しくて何の魔法までかは分からないけど、あの斧には魔法的強化が入っていることは間違いない。ボクも剣を物理強化してるけど、こっちは使う時に魔法で強化しているだけだ。でも、あっちの斧はそれとはちょっと違う。魔剣とかと同じで最初カラブキにいくつか付与されていて、恒常的に強化されている状態だと思う。

 一応魔力は必要だけど、あれならずっと流す必要もなさそうで、随分といい武器みたい……欲しいなー。戦いが終わったら貰って行ってもいいかな、いいよね、持ち主が死んだなら次の持ち主が必要だろうし。


「ああ、大分戦いやすくなっただが……その態度は舐められているようで、非常に腹立たしいッ‼」


 魔族は飛び出すようにこちらに向かって地面をけり出して、袈裟にかけて斬るように斧を振り落してきたけど……やっぱり大したことはない。

 剣で斧を受け止めてから、軽く弾いてがら空きになった腹に蹴りを入れて再び距離を開ける。大分後ろに飛んだはずだけど、倒れないあたりあっさり死んだ魔族よりは強いんだろうと思うけど、斧の一撃にしては軽すぎる。

 というより、そもそも、使い手の力が一定以上になると斧という武器は欠点が目立ち始めてくる武器だから、仕方ないとは思うけどね。


「貴様……俺を舐めているのかっ‼」

「当然じゃん、弱いし、手加減しないとすぐ戦いが終わっちゃうでしょ、それじゃあ、もやもやの解消が出来ないじゃん」


 万が一にも誰かに聞かれていると困るからさっきは誤魔化したけど、もういいでしょ。

 実際ある程度刻印の力を使えば一瞬で倒せる程度の相手だというのはさっきの一撃や、ここに来たとき後の相手の対応を見れば分かる。大した相手じゃない。

 刻印の力を使うのは少しずるいかもしれないけど、相手も似たような武器を使っているんだし別にいいでしょ。魔力製造炉の数が違うからやっぱりずるい気はしないでもないけど。


「このっ……キサマッ‼」


 魔族が再び斧を振りかぶりこちらに向かって来る。また似たような振りおろし攻撃かなとも思ったけど、少し違うみたいで魔力が斧の方へ流れるのが見えた。斧の力を使うみたいだけど、どんな魔法が付与されているのかな。

 まだ大分距離は開いているが魔族は斧を振り降ろし始めた、そして、その手に持つ斧が巨大化を始め、5倍ほどの大きさになった。なるほど、大きさの変化かな、あとはさっきはちゃんと強化した剣で受けたけどあっちの刃に影響はないみたいだし、何かしらの物理的強化も入っていそう。と、まぁ、そんなかんじかな?


 真上から振り下ろされた巨大化した斧を剣で受け止める。重量もちゃんと見た目通り増えているっぽい。なるほどね、斧の性能を十分に生かす形での強化方針なんだね、その武器は。


 斧は重量と丈夫さが取り柄の武器で、物によっては疑似的な盾としても使える。ただ、重量は使用者の力で、丈夫さは魔法の知識などで補えたりするから使用者が強くなっていくとだんだん使うメリットが減ってきて、最初からある取り回しの悪さなどのデメリットが目立っていく武器なんだけど。巨大化させることでメリット面を大きく伸ばしてデメリットが気にならないほどにしたって感じかな?


 急だから強化が足りなくて、また剣が少し欠けた。いや、ちゃんと強化してもこの剣だと正面から受け止めたらどうしても少しずつ削られていくかも。

 剣を斜めにして、滑らせるようにして斧を逸らしてから魔族の背後に回る。

 即座に反応して斧を巨大化させたまま振り回してきた。なるほど、その大きさのまま振り回すくらいの力はあるんだ。


 城の一部を破壊しながら斧が迫ってくるけど、速度はまあまあなので、刃の上に乗るような形で回避をする。

 そのまま刃の上を走っていると急に斧が元のサイズに戻り、足場が消える。なるほど、小さくも出来る……けど、多分あれ以上は小さくならないってかんじかな?


 その後、魔族は斧の大きさを変えながら振り下ろすだけでなく、いろんな攻め方をしてきたけど、どれも驚異的な力は見えない。


「ねぇ、本気なの? そっちこそボクのこと舐めてないかな? この前戦った魔族は、ちゃんとボクの力を引き出そうと全力で来てくれたんだけど」

「なに?」

「ああ、前にって言っても山賊のところにいたのじゃないよ。あれは普通に弱かったし」

「貴様……」


 オーマスにいた魔族は強かった。全力は出してないけど、あそこまで力を出すことになるとは思わなかったし、ボクの力も無駄じゃないのかなと思いもしたんだけど、ここにいる魔族は皆弱くて、少し不安になる。


「そこまで言うなら本気を出してやる」

「うん、そう来ないとね」


 直後、人一人分くらいの大きさの闇たちがこちらを襲ってくる。

 あれは魔法弾。攻撃の魔法では割と基礎で、属性や魔力量によって性質が変わるもので、火のものが良く使われる。慣れてくると火になにか別の属性を混ぜて炸裂系にして使うことが多い。

 今回魔族が使ったのは闇属性で、結構魔力を込めたからかサイズも大きめ。数は29発。闇魔法は使えない訳じゃないけど体中にある色々な刻印と相性が良くないから、あまり使ったことがなくて詳しく知っている訳じゃないけど、威力や破壊力は少しだけ控えめな代わりに受けると痛みを通常以上に感じられたり、継続的にダメージを与えてきたりとなんだか姑息な感じの効果が多かった気がする。光魔法とは本当に正反対に感じる。


 特殊の5番を動かせば受けても問題ないような物にも見えるけど、せっかくかだから切ってみようかな。

 剣に魔法反発や魔力霧散などの付与をすまして構える。


 まずは正面からくる1発、右の2発、次に左に1発、上から3発、続けて1発くるけど、同時に右から2発左から3発正面から4発。残り12発の内11発は無視しても大丈夫だけど、軌道を大分いじってあるのがある。見た感じ10発の同時攻撃の直後辺りに背後からくる感じかな。

 魔法弾はおおむね予想通りの動きで向かって来たので最初に考えていた通りの動きでその全てを斬り、最後の一発も問題なく霧散させた。


 だけど、ここまでは相手も読んでいたのかな、むしろ狙いは魔法弾の対処をさせることだったのかも。ボクが背後の一撃の対処のために振り向くと同時に相手が動き出したのが分かる。

 急に影が見えたので上の方を見ると今度は10倍ほどの大きさになっていた。大きさからか、厚みもかなりのもので、回避するにしても面倒くさいほどのサイズ感になっている。

 でもこれ剣で止めたら間違いなく折れちゃうだろうし……どうしようかな?

 うーん回避かな、いやでもな……いや、もういいか。

 ボクは剣を鞘に戻し右手を上に掲げた。そして、空から降ってきた斧を受け止めた。

 やっぱり重さも増えているけど、それだけで、ここまで来ると魔族は振り回しているだけで、プラスで力を込めている訳ではなさそう。それに、直接手に触れて分かったけど、使いこなせてない。やっぱりこの斧はボクが貰っても構わないと思う。


「化け物め……」

「君たちには言われたくないかな」


 魔族の癖に化け物って……まぁ、あながち間違ってはいないけどさ。斧を掴む手に力を込める。破壊は出来ないし、するつもりもないけど、これでがっちり掴んだはず。

 せっかく斧を掴んだことだし離さないようにしたつもりだったんだけど、斧を小さくされて逃してしまった。でも縮小の際に仕組みも分かった。多分大きくするのはそれの逆って感じだと思うし、素材と時間があれば似たようなものを作れるかもしれない。まぁ、それhそうとして、あの斧は貰い受けるけど。


「ここまでの力……何者だ?」

「何者って、勇者だよ……って、これって話してもいいんだっけ?」

「勇者だと? だが、ここまでなんて……」


 魔族が何か言っているけど……どうしようかな。もういいか、何かしらの手段で情報を伝えられる前に仕留めれば、勇者だって言っちゃったこともなかったことになるでしょ、多分。


「ということで、もう少し遊ぶ素盛だったけどごめんね」

「えっ……」


 魔族の近くまで行き、その両腕を落とし、斧をいただいた。


「ああ、この斧貰っていくけどいいよね、どうせ死ぬんだし」

「ま、まてっ…―――」

「最後に君より使いこなせるってことを見せてあげるから、それで納得してよ」


 斧に魔力を流していくと、どんどんと大きくなっていく。あの魔族では魔力的に価値空的に家は分からないが、無理そうだったのだけど、ボクなら限界まで大きくしてもこの斧を扱える自信がある。

 少しだけいつもより魔力の精製量をあげてそれを斧に注いでいき、付与されている魔法の効果の限界値と思える50倍ほどの大きさになったところで、それを振り上げて、相手目掛けて勢いをつけて振り下ろした。


 ダイナミックなスケールで、いい攻撃だ。うん、やっぱりこの武器は好みだし、貰う方向で決定だ。

 多分倒せたかなと思い、土煙の中を左目で見てみると動いている魔力が見えた。どうやら城の一角を完全に破壊してしまったのに、魔族は倒せていなかったようだ。ちょっと失敗かもしれない、逃げようとしているのか、もしくは何らかの魔法で連絡しようとしているのか分からないけど、魔力の流れを感じたので魔法弾をぶつけて、それを止めた。

 無属性で、威力も皆無にしたもので、大きさは拳くらいだけど、さっきの闇の魔法弾全部を合わせたものの10倍以上は魔力を込めたものだ。

 一度試してみたかったことだし、丁度いいからやってみた。ボクのように魔力製造炉としての魔核を持つ生物に、他の魔力を許容以上に流し込んだらどうなるんだろう。ずっと気になっていたし、どうなっているかな? 魔法は止まったみたいだけど。


 崩れた城の一部を飛び越えて、魔族の方へ歩いて行くと、随分と苦しそうにしていた。


「な、何をした……」

「まぁ、その、魔力を……ぶつけた?」

「ぐっ……それだけだと?」

「ああ、あとは腕を斬ったけど、どうかな? 今はどんな感じ?」

「………」


 うーん、答えてくれなさそう。せめて、苦しそうにしている理由が、腕なのか魔力ダンなのかは知りたかったところだけど。

 でも、こっちの方に答える気がないのなら、もう一つの方はきけるかな?


「ボクの斧の一撃、良く躱したね、普通に潰れるかと思っていたんだけど……」

「……お前の斧じゃない」

「いや、もうボクのものだよ、それは分かるでしょ、振り下ろしていた時、何度か干渉していたみたいだけど、君の元には戻らなかったでしょ」

「……なにをした」

「それを知りたいなら、ボクの質問にも答えてほしいんだけど」


 これなら、魔力弾のほうもきけるかな? どうだろう。


「ねぇ、どうかな、馴染まない魔力を大量に一気に流されて、全体的に魔力がよどんでいるように見えるけど、苦しくない?」

「なに? そういうことか……いや、だが……」

「答えてくれないんだね、まぁいいや」


 だって、今の反応は苦しいですって言っているようなものだし。あと、多分だけど魔法発動も上手く出来ない状態かも知れない。一応、徐々に魔力も変質していっているみたいだから、そのうち治るんだろうけど、今は魔力が上手く動いていないのが見える。

 一応、人間に魔力を流すのとあんまり変わらない感じなのかも。体が上手く動かなくなる。捕えるのにはいいかもしれないけど、ちょっと回りくどいかも。魔法を使えなく出来そうなのはいいかもしれないけど。

 ただ人と違う点は流し過ぎてもたぶん死ななそうだなって点。ボクはともかくジョンとか普通の人は魔力を流し込まれ過ぎると死んじゃうから。


「それじゃ、どうやって斧を避けたかだけでも教えてよ」

「……それは、短距離の転移だ」

「へー、なるほどね」


 斧を振っている時に魔力の流れは見えていたけど、あれはそういうことだったんだ。単純な高速移動かと思ったけど、あれは魔族ならではって感じだったし、ボクやジョンじゃ使えなさそうな仕組みの魔法だし、まぁ、頭の隅の九くらいでいいかも。


 あのタイプの転移が使えるのは体が魔力で出来ている魔族や魔獣だけだと思う。肉体を一旦捨てて、魔石だけを近くに転移させ、その先で肉体を再生成なんて、まず無理。魔力効率も良くないし、そもそもボクらが使ってもそんなに早く発動が出来ない。考えるだけ無駄化も。


「それで、貴様は、なんで……」

「あー、斧の召喚? 転移? まぁ、キミの手元に呼ぶ魔法のことかな? それなら簡単だよ」

「………」

「単純に、君が呼び寄せる時に使っていた魔力量の何十倍もの量の魔力をボクが流し続けていて、魔力の流れを阻害していたからね、」

「だが、それだけでは……」

「……まぁ、そうだね……だからね、魔力パスは最初に触った時点で切らせてもらったよ」

「な、なに……」


 最初に手元に呼び寄せた時点で何らかの形で魔力パスが繋がっていることは分かっていた。あの魔法の鍵となるのは、魔力パスと体の中の魔力製造炉、魔族なら魔核となっている部分だろうそれの二つなのは分かった。

 魔力パスの強引な切断自体は出来るけど、人に対してそれをしたら循環している魔力が一部流れ込んで、死んじゃうだろうから出来なかったけど、物に対してなら別。手で掴んだ時点で切らせてもらっていた。


「ということで、斧は貰っていくね、じゃあね」


 言うことも言ったし、魔族の体から魔核を引き抜いて、戦闘は終了した……お城大分壊しちゃたけどたぶん大丈夫だよね……?

 あとは、一応まだ洗脳された人たちがまだ一部動いているみたいだし、駄目そうなのはこっちで処理しておこう。ジョンもちょっとは楽になるだろうし、時間も潰せるし、斧の使い勝手も試せるだろうし。

 なるべくはこれ以上城を壊さないようには気をつけようっと。

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