ランチタイムの「彼女」の視線

赤木悠

ランチタイムの「彼女」の視線

昼休み

それは至福のひととき



午前の退屈な授業をなんとかやり過ごし

今日も一日で最高の時間がやってくる。



さあ、お弁当タイムだ。



今時珍しいであろう風呂敷スタイル。

最近は、弁当箱も大分おしゃれなデザインのものが増えているのは知っている。

だが、風呂敷に何の変哲もない四角の弁当箱という昔ながらのクラシックなスタイルが自分は一番好きだ。


さあ、ここだ。

この開ける瞬間がわくわくなのである。


母さん、いつもありがとうございます。


いざご開帳!




弁当箱の左半分は、オーソドックスにごはんのスペース。ただ、そこには一番好きなさけのふりかけがかけられている。これだけでこの弁当の魅力が2倍になっているといっても過言ではない。


おかずは、弁当の4分の1ほどを占領するソースのかかったハンバーグが半分にされてきれいに並べられ、その隣には砂糖多めの卵焼きが2つ。

ソースが他のおかずにつかないよう、仕切りで分けられているのも高評価。

野菜は、キュウリにハムを巻いて爪楊枝で刺したものが2つと、ミニトマト。

色のバランスもきれいだ。


どれも好きなものばかり。

さすがは我が母上。息子の好みをわかっていらっしゃる。

母からの愛を感じる弁当だ。



ジーーーーーーーーーーーー

どこかから視線を感じて顔をあげる。


昼の教室は、まばらで級友の多くは学食に向かったのだと思われる。

残っている6名ほどからも視線は感じない。



・・・・・・気のせいだろう。


今はこのすばらしきランチタイムを楽しもう。






ご飯と、ハムキュウリ、卵焼きと手をつけて

いよいよハンバーグに手を出そうというときに事件は起きた。



大きめのハンバーグの下に巧妙にもレタスが


レタスが敷かれていたのだ。



食べることは大好きだ。


しかし、レタスは、


レタスだけは大の苦手なのだ。


小学生の時、

母の料理を覗いている最中に

レタスに緑色の虫がついているのを見たあの日以来


レタスが食べられなくなった。



とりあえず、残りのおかずとごはんを食べきると

改めてこの1枚のレタスに向き合った。




・・・・・・大丈夫だ。

このレタスに虫がいないことは母さんが確認しているはずだし、枚数も1枚だけだ。

それに似た野菜のキャベツは食べられるし

ハンバーグのソースも少しついているおまけ付きじゃないか。

何を恐れる必要がある。


そう頭の中で唱えながら、箸をレタスに近づける。





・・・・・・ふと、弁当箱と下に敷いてある風呂敷の間に小さな紙らしきものが挟まっていることに気づいた。



何だろうと思い、二つ折りの紙を広げてみると


『高校生なんだからレタスぐらい克服しなさい by 絶世の美女』


という息子への愛とユーモアに富んだ手紙であった。





そして手紙の終わりには、母オリジナルの「リボンとつけまつげをした芋虫」という独特なキャラクタ-が描かれていた。


大きく描かれた瞳がまっすぐこちらの目を射貫いている。


好き嫌いをするな、と視線で訴えかけてくる。





そして僕は







「彼女」から目を逸らし

無言で弁当箱を閉じた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ランチタイムの「彼女」の視線 赤木悠 @yuuuu7aka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ