はみがき

半田虻

拝啓、

 

 

 歯磨きって絶望だと思う。


 


 こんな文学的な言い回しをしてるけど、要するに私は歯磨きが嫌いだってこと。私にとってはあの時間が苦痛でしかないの。歯ブラシの見た目も生理的に無理。歯磨き粉だって気持ち悪いわ。あんなもの口に入れるなんてみんなどうかしてる。だけど嫌いな一番の理由は、歯磨きに時間をとられすぎるから。一度始めたらとことん突き詰める癖がある私は、いつも歯磨きに何十分も時間をかけてしまう。で、結局私は一日に何時間も歯磨きをすることになるの。これって途方もなく無駄よね。手が塞がるから磨いてるときは他のことできないし。でも自分の性格って直せないじゃない、分かるでしょ?だから私は歯磨きの時間を減らすことはできなくて、歯磨きっていう行為そのものがなくなればいいなって考えてるのよ。だけど、みんなが考えてるように歯磨きってすごく大事なことなの。それは私でも解ってるわ。歯磨きしないと口が臭くなっちゃう。それって誰でも嫌よね。もちろん私も嫌よ。だけど私にとってはそれと同じくらい歯磨きをすることも嫌なの。私はどうしたらこの二つの嫌なことを同時に解決できるか考えたわ。歯磨きのことを考えるのさえ苦痛だったけど我慢して四六時中考え続けた。学校にいるときも、もちろん歯を磨いてる最中にもね。そして出たのはとっても単純な結論だった。




 私は歯を抜いたの。全部抜いちゃった。麻酔もなくてすごく痛かったけど、工具箱のペンチを使って一人でやった。ついさっきよ。だって歯医者に相談しても抜いてくれるはずがないもの。洗面台は私の血で真っ黒。だけど私の心はまっさらに晴れ渡るようだった!でも一つ困ったことがあるの。歯を抜いてから私は上手くしゃべれなくなっちゃった。パパやママにも自分のことを伝えることができないの。だからこうしてパソコンで文章を書いているってわけ。私バカだから上手に書けないけど。それにね、口から血が止まらないのよ。今も痛みで頭がおかしくなりそう。多分もうすぐ死んじゃうだろうなってことはこんな私にも想像つくわ。だからこれは遺書。パパ、まま、こんな私をゆるしてね。だけど私にとっては死ぬことよりも歯磨きをすることのほうがずっと辛いのよ。だから今とっても幸せ。だったら最初から歯なんて抜かずに楽に死ねば良かったのにって今思ったわ。(笑)とにかくさよなら。

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はみがき 半田虻 @ts3y18

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