第11話 異質な力、圧倒的な力
「お前―何故生きてる!?
お前本当にヒュマなのか?」
目の前の者にいる不気味な何かを醸し出す異質なる存在に、サイクロプスは思わず尋ねる。
「そのハズなんだけどな!
あと何で俺がまだ生きているかなんて、俺にもさっぱり分からないよ。
だからアンタの質問には俺も答えが分からない。
自分自身の身に何が起きてるか自分でも分からないって、全く持って笑えない話だとアンタも思わないかい?」
自傷気味にハチマルは、自分の身に起きている状況をサイクロプスに話した。
一方その姿を見たサイクロプスの表情は、ハチマルを異様な存在としての認識が強まったためか、より険しさが濃くなっていた。
(どうなっているんだコイツの力は?何故あれほどの傷が治っているのに、ヤツは何かを消費した様子が見られない)
目の前にいる異質な存在の力が、異質だと感じる理由をサイクロプスはやっと気が付く。
本来力というモノは、使えばそれ相応の何かを失っていく物である。例えば体を再生させる力を持った者がその能力を使えばその能力に応じて何かを失うモノなのだ。
己の自身の持つ再生力を使えば、それ応じた体力や生命力を消費するし、個の持つ特殊な力や、魔法等の己の体力とは別に存在する力であるマナを使うならば、マナを消費すると言った具合にこの世の原理は等価交換で成り立っている。
それにも関わらず目の前に聳え立つ異質な存在は何も失わずして己の体を再生せさているのだ。
そんな異質な力を持った存在を”このまま野放しにしておくわけにはいかない”とサイクロプスの本能はアラートを鳴らして、サイクロプスの脳に目の前の異質な存在の危険性を訴えかけてくる。
サイクロプスは本能が出し続けているアラートに従い、何度殴っても死なない異質な存在を消すために、サイクロプスはハチマルとの距離を再び一瞬で詰めつべく駆け出す!
そして迅速に距離を詰めた後、全力を込めた拳をハチマルに振り下ろした!が振り下ろした拳はハチマルを捉える事が出来ず、空を切った。
(躱しただと?)
己の渾身の一撃を、ボロボロの状態の相手に躱され事に驚きを隠せないサイクロプス。
「何度アンタの攻撃食らったと思ってんだ?
流石にアレだけ何度もアンタの攻撃食ってたら、いくらトロイ俺でもアンタの攻撃のタイミングぐらい体が勝手に覚えてくるぜ!」
サイクロプスの渾身の一撃を躱したハチマルは、そのままサイクロプス死角となっている足元に入り込み、手に持った剣をサイクロプス足に突き立てた。
「グッ舐めるな小僧!」
足に剣を突き立てられ、一瞬だが苦悶の表情をサイクロプスは見せた。
だが剣をサイクロプスの足に突き立てた事で、僅かに動きが硬直したハチマルをサイクロプスは見逃さず、ハチマルが己の足に剣を突き立てている事などお構いなしに、突き刺さっている剣ごと強引にハチマルを蹴り飛ばした!
ハチマルはサイクロプスの巨大な足で剣ごと蹴り飛ばされ、そのままの勢いよく地面に叩きつけらる。
だが地面に叩きつけられたハチマルはすぐさま起き上がった。そして先ほどのサイクロプスに蹴り飛ばされてしまった際に折られてしまった剣の代わりを得る為、再び地にひれ伏す躯となった仲間の元に駆け寄ると、再び先程まで仲間が使っていた武器を拾い上げて、再度サイクロプスに突撃を開始した。
「うおぉぉぉぉぉぉ!」
仲間達の仇を討つべく、叫びながらサイクロプス突撃するハチマル。何度殴りつけその身を砕こうとも再び立ち上がるハチマル姿に、サイクロプスは僅かにたじろいだ。それは決してハチマルの敵討ちの思いから発する気迫や、圧倒的な力の差を見せつけているにも関わらず物怖じしないで突撃してくる姿勢に気圧された訳でもなかった。
今度はハチマルから更に別の異質を感じてしまったからこそ、サイクロプスはたじろいだのだ。
サイクロプスが一瞬たじろいだ事で、僅かに生まれた隙を逃すまいとハチマルはサイクロプスの腕目掛けて剣を振り下ろす。
隙を付かれたサイクロプスは、ハチマルを迎撃するのは間に合わないと悟り、ハチマルの一撃を自慢の腕に力を込めて作り上げた己の強靭な肉体の鎧で弾き返した。
そしてすぐさまサイクロプスは反撃に転じようとするが、先程攻撃を受けた部分に痛みを感じたので、サイクロプスは攻撃を防いだ部分を確認する。
すると先程のハチマルの一撃は、僅かとはいえサイクロプスの腕に切り傷を与えたため、サイクロプスの腕から血が滲んでいた。
完全に防いだと思っていた攻撃で、己の腕に傷を付けらた事に驚きを隠せないサイクロプス。
そしてまた隙をさらし、その隙を逃すまいと追撃を仕掛けてくるハチマルに対し、またもや出遅れたサイクロプスは、今度こそハチマルの攻撃を完全に防ぎきるべくより腕に力を集中させ、今度こそハチマルの攻撃を防ぎ切ろうとする。
そしてハチマルが己を狙って振り下ろした剣を再び受け止める。その結果は先程と同じく、またしても攻撃を受けた部分に、小さいとはいえ切り傷を負わせていた。
サイクロプスは防御の為に力を込めた部分を、先程まで人族は誰も傷を付ける事が出来なかったハズなのに、突如傷を付けれるほど成長した異質な力に対して、己が新たに感じた異質さが間違いで無かった事を確信する。
(このヒュマ、全ての能力が最初にやり合った時より間違いなく数段増している!)
人族も魔族も戦いの中で、何かを切っ掛けに突如力を増し、急成長したかのように動きが良くなる者は確かに存在する。
だがそれは元々己が持っていた力を、戦いの最中で力を発揮出来るようになったり、戦いで力を扱うコツを掴めるようになっただけであって、あくまで元々持っている己の地力という力の源が己に在る者が、発揮出来なかった力を存分に力を発揮させた時。爆発的に成長したように見えるだけなのである。
だが、今サイクロプスが相対している敵は、初めにこ己に向かって来た時より確実のそのスピードが速まると同時に、剣を振るう力も己の肉体に傷を付けれる力を発揮してきたのだ。
サイクロプスが何度も徹敵的にダメージを与えているにも関わらず、今サイクロプスと戦っているハチマルは、最初に出会った時より格段身体能力が増したのだ。
(ヤツと最初にやり合った時、ヤツが振るう剣は俺の肉体に一切傷を付ける事は出来なかったし、俺の攻撃をマトモに食らった後、ヤツはしばらく起き上がる事さえ出来なかった。
だが今ヤツはどうなっている?ヤツは俺の攻撃を受けても平然と立ち上がった後俺の攻撃を躱し、俺の体に傷を付けるようになった。
そんな急な肉体の変化が起きれば、その変化に体は付いてこれず、必ず反動が襲ってくるはずなのにヤツにはその素振りが見えない…やはりヤツの力は異質過ぎる!)
ハチマルと攻防を繰り広げながら、サイクロプスはハチマルの変化の分析を続けていた。
(やはりヤツから感じる異質で不気味な力は、何かを使って生み出す自然の摂理の沿った力とは、根本的な何かが違った一線を画す異質な力だという事だけは分かる。
そんな危険な力を持ったヤツをこのまま放置しておいていいのだろか?
否!ヤツをこのまま放置し、その力が増大したら今後我ら魔族の絶対的な脅威となり得る存在となる存在をを野放しにする事は出来ぬ!
アイツは今ここで、俺の命に代えても確実に仕留める必要がある!)
サイクロプスは己の力の全てを使ってハチマルを始末すると心に決めるた。
そしてハチマルとサイクロプスが攻防を続ける中、サイクロプス目掛けて斬りかかるハチマルの剣をサイクロプスは片手で受け止める。
そしてそのまま動きの止まったハチマル目掛けて、もう片方の腕から放つ強烈な拳の一撃でハチマルを殴り飛ばした。
またもや殴り飛ばされたハチマルだが、今度はその身を地面に激突させる事なく、吹き飛ばされながらも空中でバク転を決めて姿勢を立て直し、受け身を取って衝撃を殺す動作を見せた。
遂にサイクロプスの一撃に耐え出したハチマルだが、サイクロプスはその様子を見ても次は驚く様子をみせず、むしろ全てを賭けてハチマルを倒す事決した事で冷静さを取り戻していた。
「やはりお前はどんな理屈の能力なのか分からんが、急激に身体能力を上げる事が出来るようだな」
「アンタの言う通りだよ!
俺はアンタと戦っていると勝手に体が丈夫になったり、動きが早くなっているみたいだな!」
「そうか…ならお前に一つだけ教えてやろう。お前の力は明らかに異質その物だ!
力とは本来どのような能力であっても、行使するのに何かしらの代償が伴うモノ!だがお前の力は何も失わずして発揮されているという異例の事態だ
そんな異例で異質な力の芽が出始めたお前を確実に抹殺するために、俺は持てる全ての力を使ってお前を殺すと決めた!」
サイクロプスはベーオウルフに向けてそう言い放った後、腰を落とし体を震わせ始める。
そしてそのままサイクロプスの皮膚は薄いブルーから薄い赤色へと変わると、続いて体の至る場所の筋肉が盛り上がり、強靭な肉体はより強靭な肉体へと変貌した。
「おいおい…まだアンタ全力じゃなかったのかよ?」
変貌するサイクロプスを唖然と見つめながらベーオウルフは、変貌したサイクロプスの感想を口にする。
「覚えておけよ小僧!
切り札というのは確実に相手を仕留めると決めた時まで取っておくものだ!」
サイクロプスという種族の持つ特殊能力、
カリュプスによって強化された肉体から生み出されるサイクロプスのスピードは、先程とは比べ物にならないほど素早く、先程までサイクロプスの動きに付いてこれるようになっていたハチマルだが、今度はそのスピードに反応する事が出来ず、一瞬にしてサイクロプスに己の懐へ侵入される事を許してしまう。
「オォォォォォォ!」
雄叫びを上げながらサイクロプスは、カリュプスによって生み出される真の全力の一撃をハチマルに向けて放った!
先程よりスピードも破壊力も増して更なる驚異の一撃となった拳に対して、ハチマルは一切反応する事が出来ないままモロにその一撃を喰らってしまう。
そしてそのまま後方に聳え立っている断崖まで吹き飛ばされると、その体は断崖に”ドッゴーンッ”派手な音を立てて激突した。
「ガハァ!」
正面から激しい衝撃を加えられた後、背中から断崖に叩きつられた事で、ハチマルは口から血と空気を強制的に吐き出す事となった。
断崖に叩きつけられ苦しむハチマルに休む間など与えまいと、サイクロプスは崖に叩きつけたハチマルに更に追撃を加えるため、再びカリュプスによって強化された拳ハチマルを殴りつけた。
カリュプスによって強化された一撃は、ハチマルを固い断崖の中に押し込むほどであり、再び殴りつけられたハチマルの体は、そのままサイクロプスの拳と共に断崖の奥目掛けてめり込んで行った。
そしてサイクロプスはより強力な追撃を加えるべく、次はパンチに回転を加え更に破壊力を増した一撃を、断崖に押し込まれて身動きがとれないハチマルにお見舞いする。
破壊力を増した一撃が断崖にめり込んでいるハチマルをより断崖の奥に押し込めると同時に、巨大な亀裂が断崖に生じる。
そしてサイクロプスが断崖に深くめり込んだ腕を強引引き抜くと、断崖はガラガラと大きな音を立てて崩れ落ち始めた、
サイクロプスは崖崩れに己が巻き込まれないよう素早くその場から離れると、崩れ落ちる断崖の様子を離れた場所から伺い、崩れ落ちた断崖で生き埋めにされたベーオウルフが再び地上に這い上がってくる様子が無い事をサイクロプスは確認する。
「これで例えまだ生きていたとしても、這い上がってくる事が出来ないお前を待つのは死だ!
そのまま大地に埋もれたまま永遠に眠るがいい。
異質なる力を持った人族よ!」
こうしてハチマルを崩した断崖で生き埋めにしたサイクロプスは、己本来の目的を果たす為に、仲間達が戦っている戦場目掛けて全力で駆け出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます