第10話 異質なる存在


 (…どうして俺は夜空を見上げているんだ?それに体のあちこちが激しく痛むし)

 暗闇の夜空を見上げていたハチマルは、体中に走る激痛に耐えながら、頭を起こして自分の状態を確認すると、自分装備品がボロボロになっている事を確認する。


 (ああ、そうか…俺はあのデカ目にやられたんだな)

 サイクロプスの強烈な拳の一撃を受けた事で、ボロボロの体になって地面に転がっている己の無様な状況を把握した事で、ハチマルは自分が運よく生き延びている事を痛感する。

 次々と仲間達を物言わぬ肉塊に変えたサイクロプスの一撃受けても、運よく生き延びたハチマルは、ボロボロで至る場所から激痛が走る体を何とか僅かに起こし、周囲に自分のように生き延びている仲間がいないか痛みに耐えながら確認するが、先程サイクロプスと戦って返り討ちにされた仲間達は、誰一人ピクリとも動く気配を見せない事を確認する。

 こうしてハチマルが抱いた淡い希望は、あっさりと潰えた後にハチマルの目に入ったモノは、この場にいる傭兵を一人残らず始末したのを確認した後、この場を去ろうとして己にに背を向け、砦に向かって歩き出すサイクロプスの姿だった。


 (ちくしょう!フタマルも隊長も他の皆も、あのデカ目に何もできないまま殺されたなんて!)

 そう思った途端、ハチマルの目からは様々な思いが溢れると同時に涙が目に浮かんだ。

 勇敢に立ち向かった仲間達が必死に立ち向かっている時、自分はフタマルが殴り飛ばされていのを見て、慌てふためいている内にサイクロプスに何も出来ずして殴り飛ばされた挙句、おめおめと生き残ってしまっている。

 そんな自分に対して苛立ちを感じつつも、ハチマルの中には様々な思いが渦巻きだす。


 傭兵部隊に入隊した時から、時には喧嘩し、時には励ましあった一番の戦友であったハチマルや、防衛部隊に配備されてからフタマルと共に世話になりっぱなしで、結局最後までその恩を何一つ返す事が出来なかったネリオ小隊長。そして先程まで生き残る為に必死で共に戦った戦友達を失った悲しみが、ハチマルの中を覆い尽くそうする。

 だが殺された仲間達の無念を考えると、何も出来ずに無様に地面に転がされた自分自身の情けない姿に対して悔しと己に対する怒りの感情が現れた。

 そしてその感情は、ハチマルの心が今悲しみに暮れる事を許しはしない。


 「…このままで、終われるかよ」

 そう口にした後、フタマルはゆっくり立ち上がり、地面に倒れ物言わぬ骸となったいる仲間の元に、フラフラとした足取りで向かい出した。そして物言わぬ躯となった仲間の隣に転がる剣を拾いあげる。


 「名前も知らねぇアンタ。俺の剣はさっきデカ目に折られたみだいだからさ。

 ちょっとアンタの剣を借りるよ」

 そう言って名前も知らぬ戦友の剣を手にしたハチマルはサイクロプスに向かって大声で叫ぶ


 「待ちやがれ。デカ目ェー!!」

 名も知らぬ戦友の剣を構え、ハチマルは力の限り叫ぐ。

 その叫びを聞いたサイクロプスは、防衛砦に向けて進めていた足を止めると、ゆっくりとハチマルの方へその巨体を向ける。


 「まさか俺の一撃を受けて立ち上れる者が先程の奴らの中にいるとはな!」

 サイクロプスはハチマルの元にゆっくりと近づきだした。


 「どうやって俺の一撃に耐えたのかは知らんが、俺の一撃に耐えた事は称賛に値する。

 だが、せっかく繋ぎ止めたお前の命もこの一撃で終わりだ!」

 そう言い放った瞬間、サイクロプスの射程内にハチマルを捉えていたサイクロプスは、無慈悲にもフタマルに再び相手の命を奪う一撃を打ち込んだ。

 再びサイクロプスの一撃を撃ち込まれたハチマルは、鈍い音を体から響かせた後に吹き飛んだ後、またしても地面に叩きつけられ地面を転がった。


 「大人しく寝ていれば、その繋ぎ止めた命を無駄にしないで済んだものを。

 馬鹿者め」

 サイクロプスは物言わぬ肉塊となって地面に転がるハチマルに対して一言呟いた後、再び防衛砦に向けてその体を向けると、今度こそ先に防衛砦を攻めに向かった仲間達の元に合流すべくその足を進めようとする。


 「まだ…まだ俺はくたばっちゃいない!!」

 サイクロプスの足は結局進まなかった。後ろから確かに仕留めたハズのハチマルの声を聞いてしまった事で、サイクロプスはその足を止めるしかなかった。

 サイクロプスは素早くその巨体をハチマルのいる方へ返すと、そこには再び剣を構えて立ち上がるハチマルの姿があった。

 ボロボロの体で再び立ち上がるハチマルを見つめるサイクロプスの表情は、唖然としていた。


 (馬鹿な!俺は先程アイツを殴り飛ばした際、確かにアイツの体を潰した手応えをこの拳に間違いなく感じたんだぞ?

 あの感触は間違いなく骨と臓器を潰した感触だったハズだ!)

 目の前で起きている異常な状況を、流石のサイクロプスも不気味さを感じたようで、サイクロプスは再び立ち上がったハチマルに対して、その巨体から想像もつかないスピードでハチマルとの距離を詰めると、今度は助走から生まれた勢いも加えた先程の一撃を超えるより強烈な一撃を、目の前に立つ不気味なな存在に向けて放った。

 より強烈さを増したサイクロプスの一撃は、もはや並の人族の体などバラバラに吹き飛ばしても可笑しくないような威力の一撃へと変貌しており、そんな一撃を受けたハチマルの体は、先程受けた一撃より鈍くて響き渡る言葉では言い表せない音を周囲に響き渡らせた後、激しい勢いを持って地面に激しく叩きつけられた。

 そしてハチマルは、まるで糸の切れた操り人形と例えても可笑しくないほど体の彼方此方が可笑しな方向に曲がっており、人とは思えぬ姿勢のまま地面を激しく転げ回る。

 その姿を確認したサイクロプスは、”これで生きている者など、人族にいる訳がない!”と思ったが、ある疑念も同時に生まれた。

 

 (多くの相手を葬って来た己の一撃を受けて二度も立ち上がった異常な存在が、これで本当に息絶えたのか?)

 そんな疑念がサイクロプスの頭を過る以上、確実に息絶えた事を確認するまで安心出来ないと本能が訴えかけてきたので、相手を確実に仕留められたか確認するため、壊れた人形の如く体のあちこちが可笑しな方向に曲がった姿勢のまま地面に寝転がる者に近づいて、相手の死の確証を得る確認をしよとした。

 だが死んで動く事はないハズであるハチマルの目がサイクロプスの方に動き、二人の目が合った瞬間ハチマルの肉体は動き出した!

 可笑しな方向に曲がったハチマルの体は、ベキベキと骨が動き出したような低い音を立てながら動き出したのだ。

 そして可笑しな方向に曲がったハチマルの体が元の位置に戻ると、再びハチマルは立ち上がり


 「まだだ…まだ俺はやれるぞ。デカ目ェー!」

 再びサイクロプス向けて戦闘続行の意思を示した。

 その姿にサイクロプスも恐怖を感じたのか、サイクロプスは次は追撃を仕掛けてこなかった。

 ハチマルはその隙を付き、再びまた物言わぬ躯となった戦友の元に近付くと、再び名も知らぬ戦友の剣を拝借し、サイクロプスに向かって突き進みだす。


 「うぉぉぉぉぉ!」

 ハチマルは叫んだ。

 それは何も出来ずに討ち死にした仲間の無念を込めた叫びであり、何も出来ないまま謎の力で生き残っている自分を攻めているようにも聞こえる悲痛な叫びだった。

 だからといってサイクロプスも黙ってハチマルの攻撃を受けるつもりは全くなかった。


 「いい加減―くたばれ!」

 そう言ってサイクロプスは突撃してきたハチマルに、持てる力を全て込め、出し惜しみなど一切ない一撃にて、ハチマルにカウンターを食らわせる。

 そしてそのまま己の拳ごと地面にハチマルを叩きつけ、ハチマルを地面に押し潰した。

 その時サイクロプスは己の拳から、今日叩き潰してきた敵の中でも一番の手応えを確かに感じた。そう、確実に相手の体を叩き潰してミンチにした感触を己の拳から確かに感じた。

 だがそんな今日一番の手応えを、間違いなく己の拳から直接感じ取ったとしても、サイクロプスの脳裏にはあの不安が頭に浮かんで離れない。


 (本当に奴はコレで死んだのか?)

 頭から決して離れる事のない不安要素を消し去る為、サイクロプスはさらなる追撃ハチマルに容赦なく何度も加え始めた。

 その拳が敵であるハチマルの体を押し潰す度に、大地は激しく揺れ、サイクロプスは己の拳に直接敵の骨や肉を"グシャッ"と押し潰す確かな手応えを感じていたが、その手応えを何度感じても、サイクロプスの脳裏には、『これで本当に奴を仕留めたのか?』という不安が頭から付き纏った。


 何度も敵を殴り突ける己の拳は、一体何度敵の体を潰した感触を感じただろうか?

 それさえ分からなくなるほどサイクロプスは、目の前の不安様子を生み出す存在を全力で殴り続ける。

 そして全力で殴り続けサイクロプスは息を切らし、その全身が油汗だらけになった時ようやくサイクロプスは敵を殴ることを止めた。

 殴ることを止めた己の拳を、ゆっくりと地面から剥がすと、そこには地面にめり込み、血まみれの醜くい姿となった敵の姿がだけが残っていた。

 しばらく醜い姿に変わった不気味な存在の様子を観察し続けたが、元人族のヒュマだったモノはピクリとも動かなかった。


 「ようやく息の根が止まったか!全く、手間をかけさせやがって」

 不気味な存在が動かなくなったの確認した後、サイクロプスはその場を後にしようと本来の目的地に向かって歩き出す。


 (しかし、奴はどうやって俺の攻撃を耐え抜いた?人族のヒュマ、エルフ、ドワーフ、ホビット。

 どれも俺達魔族に比べたら、肉体の強靭さで劣る種である人共。そんな軟弱な人という種の中にも、俺達一族の力に対抗出来る何かを持った奴らが最近稀に現れるているとは聞く)

 サイクロプスは、目的地に向かいながら自分の持つ人という種の情報を引き出し始めた。


 (だが、さっき仕留めた奴は回復魔法や特殊な何かを使った様子は見られなかった。ヤツは間違いなくなんの変哲もないごく普通のヒュマだった。

 そんな奴一人仕留めるのに、時間が掛かったのは今だに腑に落ちんが――恐らく何かしらトリックがあったのだろう。

 仕留め終えた今となっては、最早どうでもいい事だが)

サイクロプスとしても、あの人族の者が何故自分の攻撃に何度も耐え抜いたのか、全く気にならない訳では無かった。

 だが、相手はもう何も話さない只の屍となった以上、今サイクロプスがやるべきことは本来の目的である防衛砦を攻めている仲間達の元に一刻も早く向かう事であり、人族軍の重要拠点の一つを落とす事が、この戦でサイクロプス達が達成すべき任務なのだ。

 今度こそ本来の任務遂行すべく、己の足を進めるペースを上げるべきなのだが、何故か背後から嫌なプレッシャーを感じるような気がするサイクロプスは、己の進むペースを上げる気になれなかった。


 気のせいだと分かっているのに、後方から感じるプレッシャーを捨て置く事が出来ないサイクロプスは、後方から感じる嫌なプレッシャーを確かめるべく、一度足を止めて後ろを振り向き後方を確認すると。


 (馬鹿な!俺は…悪い夢でも見ているのか?)

 サイクロプスが後ろを振り返った際見た者は、先程叩き潰したハズのヒュマが再び立ち上がっていた姿だった!その姿を見たサイクロプスはこう思っただろう。


 『何度殺しても立ち上がるあの男の姿は誰が見たとしても、もはや人でもダイモンない異質な存在にしか思えない』と

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