第2話

 ばっと顔をそちらに向ける。

 そこには、見たこともないぐらい整った顔があった。

 目を見開くと、相手も同じように大きく目を開き、そして破顔した。


「初めての客人だ。くつろげ」


 くつろげと言われても。縛られた足をモゾモゾ動かすと、面白そうに笑う。


「よもや人が入り込んでくるとは思わなんだ。どうやった?お前、忍びの者か」


 何を言っているのか全然分からない。忍びの者って普通の会話で出てくるか?

 ツッコミたいのに、口の中の布が邪魔して、むーむーと情けない声しか出なかった。

 男は立ち上がると足で身体を転がした。仰向けになって息が少し楽になる。

 そしてぐいと猿轡を顎へとずらされた。


「痛った……!」

「名前は?」


 どうにも偉そう。むっとしたが、この状態では逆らえる訳もない。


赤松あかまつしゅう

「……ほお?」


 虚をつかれたような顔をしたあと、男はその整った顔を窓の方へと向けた。


「なんの因果か……」


 それきり黙ってしまう。

 沈黙に耐えられず、小さい声で話しかけた。


「あの……あなたは誰なんですか」

「答える義理は無いのぉ。柊、お前が何者かの話がまだ終わっていない。そもそも、俺が気づかない筈がないのだ」

「……どういうこと、ですか?」

「ここに誰かが侵入したらすぐ分かる。だのに、お前はいきなり俺の目の前に落ちてきた」

「落ち、て……は?」

「こう」


 言いながら男は手で、上から人が落ちてくる様をやってくれた。


「死んでいるのかと思ったが息はしていたから、こうして縛りあげておいた」


 そして指さされたことで気づいた。


「あれ?俺、浴衣だ」

「ここに現れた時のままだぞ?こんな薄着の忍びなんて見たことがない」

「俺は忍びとかじゃない!」

「じゃあなんなんだ」

「……」


 なんなんだろう。頭がどうにもぼんやりする。

 モヤを少しずつ退けていこうとするが、男が「なぁ」とか「早く答えよ」とか言うから全然整理出来ない。

 仕方ない。この人からまず話してもらおう。


「はい!!」


 学校で挙手する時のように、勢いよく声を出したらビクリと男が固まった。

 おお、不意打ちに弱いのか。


「な、なんだ」

「ちょっと俺、頭打ったのか状況が分からなくて。先にここが何処なのか、教えてもらえませんか」

「ここが、何処か?」


 先程より驚いた顔をして、そして、男は片目を眇めた。


「……よし。教えてやろう、小僧」

「なんでそんな偉そうなの」

「は?」

「あ、すみません」


 思わず小さな声で入れたツッコミも、丁寧に拾われて肩を窄めた。

 続きをお願いします。


「天守閣だ」

「……てんしゅ、かく?」

「ここは白鷺城しらさぎじょう天守閣。喜べ小僧。ここに入ってきた人間は、城主以外では初めてだ」

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