第3話

 多分、人生で最大級の混乱。

 しらさぎじょう、って。

 ――え、城?


「俺は奏太そうた。ここのぬしじゃ」

「ストップ、え、待って待って?理解が全く追いつかない」


 奏太と名乗った男は「えらく混乱しておるようだな」と呟いて、足元にしゃがみ込んだ。


「自分の目で見てみるが良い」

「……ほどいてくれるんですか?」

「お前からは邪気がせん。物は試しじゃ。ほれ」


 細い身体に似合わぬ力で腕を掴まれ、あっという間に立ち上がった。

 促されるまま、窓に近づく。

 そして、息を飲んだ。


「……侍?」


 着物を着て、刀を腰に下げた男が立っている。

 当たりは月に照らされて明るいが、街灯が、無い。


「聞いても、いいですか」


 声が掠れた。


「いま、何年ですか」

「元和四年」

「げんわ」


 なんだそれ、聞いたこともない。頭がくらっとして足元がふらついた。「おっと」と手を伸ばしてきた奏太が支えてくれる。情けなく縋りつきながら、大きく息を吸った。


「……段々思い出してきた」

「ん?」

「俺、学校で部活やってて」

「ぶ、か、なんじゃ?」

「衣装の代わりに浴衣着てくれって頼まれて、そんで」

「おいおい、まだ混乱しておるのか?」


 奏太が笑うが、それどころではない。


「なんで俺ここにいるの」


 敬語を使う余裕もなくて、奏太に捕まったままその顔を見上げた。情けなくも涙が出てくる。

 もしかして、もしかすると。


「お前も、妖怪の類か?」


 奏太がじっと見つめ返しながら、優しい声で言った。

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