第5話 思い出の数だけ思うこと

“ガラガラ”


「久しぶり」


「うん。...いきなり呼んでごめんね。悟。」


「別に...部活終わりだし。」


「...。」


「...。」


開いた窓から聞こえるひぐらしの鳴き声が、窓から差し込む夕日が私たちの記憶を強く強く思い起こさせる。


「私たちの始まり方もこんな感じだったね。」


「体育館準備室に俺が知恵を呼んだんだよな。」


「あの時は私すごくうれしかったな~。ずっと待ってたから。悟のこと。」


「俺もうれしかった。」


互いに目を合わせず窓辺で横に並んで相手の影を見て話す。


「初めてのデートは...近くの公園の夏祭りだったね。」


「あの日は知恵が気合を入れすぎて、靴擦れにすぐに気づけなかったんだよな。」


「そんなことあったね。でも悟はいつも通りの服装だったから...私だけが意識してるみたいで恥ずかしかったんだよ。」


「覚えてる。」


「気づいてたの!」


つい彼の顔を見てしまう。でも彼の顔は夕日で影ってよく見えなかった。私はまた彼の影に視線を移す。


「でも、すぐに進級しちゃって受験が迫っちゃったよね。」


「あの時の悟の言葉にはびっくりしたな。勉強苦手なくせに、私の行きたい学校を目指してくれた。」


「俺のせいで知恵がやりたいことを出来ないのは嫌だなって思っただけだよ。」


「大変だったくせに、カッコつけちゃって。担任の先生にかなり心配かけてたの私、知ってるんだからね。」


「あれは先生に悪いことしたと思うよ。でもちゃんと合格して安心してもらったし。」


「おかげで先生に合格のお知らせし一緒にしたらすごい泣いてたよ。」


「知らなかった。」


「私だって心配してたんだからね。」


「...。」


「...。」


私たちは思い出を語り合った。高校に入学して友達ができるか心配したり、クラスが一緒で喜び合ったり、海辺の花火大会に行ったり、隣だけど互いに止まりあったり、映画見たり。


思い出話ついでにその時思ってたことを暴露したり感じていた相手の気持ちを確かめたりした。


「悟って隠し事うまいよね。」


「全部知ってたのにそれを言うか。...俺たちは幼馴染だから当たり前だったのかもしれないけど。」


「...でも幼馴染じゃなくても悟のこと1番理解できるのは私だったと思うよ。」


「俺もそう思う。」


「...。」


刻一刻と日は沈んでいき、私たちは最高の瞬間に見つめ合った。


「悟、......私、...あなたが好き。」


「俺は...。」


悟は小さく深呼吸する。その息は震えていて悩んでいる様子だった。今は悟が何を思っているのか分からない。


だから緊張する。それは私にとって初めての感覚だった。胸のあたりが“ギュウッ”と締まって、悟の呼吸音と私の心臓の音以外聞こえなくなった。


「俺は...。俺も知恵が好きだ!」


その瞬間、聞こえていなかった音が帰ってきて私の心臓の音をかき消した。


「君が好きだから俺は君を泣かせたことを後悔している。どうしたら許して...!」


私は悟に抱き着いていた。


「もういいよ...、約束...また新しく作ろ。二人で。今度はわかりやすいやつ。」


悟は少し複雑な顔をしていたが、了承してくれた。私は両手を悟の両肩に落ちて腕をのばし、顔を見る。


太陽が水平線から完全に隠れる瞬間に私達はキスをした。


不意に恥ずかしさを覚え、目をそらすと...


「そこのお二人さん、何やってるの?)」


「「“げっ先生! シー!”」」


「シーって、...! “もしかして何か取り込み中だった?”」


全て丸聞こえの忍び声。入口から顔をのぞかせるのは、先生と私の親友と図書室の後輩だった。


私と悟はゆっくり顔を見合わせて、間を置いてから笑った。


「さて、帰ろっか! 悟♪」


「そだな、知恵♪」




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